完璧で美しい土下座を披露する一日前。



「ただいまー」



学校が終わってファミレスのバイトも済んで、ようやく家に帰った。



今日は団体客が入って忙しかったな。



疲れた。




「ちょっと、なんでこんなに遅いのよ」



「バイト」



「フン」




ハァ……。



“おかえり”も“お疲れ様”もない。



これが私、小芝翡翠(こしばひすい)の母親だ。



父親は居ない。



誰かも知らない、会ったことも勿論ない。




愛情というものをあまり感じたことはないけれど、ここまで育ててくれて高校にも行かせてくれている。



そこは感謝している。



だから少しでも生活費の足しにとバイトもしてる。



それに




「ただいま〜、珊瑚」



「あーっ」




小さな手を精一杯私に伸ばしてくるのは、生後5ヶ月の妹、珊瑚(さんご)



珊瑚が離乳食になったからより稼がないと。



ちなみに珊瑚も父親はわからない。



ニコニコと笑う可愛い珊瑚を抱き上げると、オムツが……




「お母さん、珊瑚のオムツいつから替えてな……」



「うるさいわねぇ。あたしは忙しいの」




今、母親を見て気づく。



とてつもなく綺麗に着飾っている。




「……何、どこかに行くの?」



「そ。彼氏が結婚してくれるって言うから」



「は?」



「アンタ達が居ることを相手は知らないの」



「え?」



「だから、バイバイ」



「ちょっ」



「可愛く産んであげたから、アンタならいくらでも生きていける」



「さんっ、珊瑚は!?珊瑚はどうするの!?生まれたばかりっ」



「アンタにあげる。自分の子としてでも育てていきな」



「そんなこと出来るわけっ」



「時間だ、じゃあね元気で」



「お母さん!!」



「後、明日借金の取り立て屋が来るからどうするか話して」



「借金!?お母っ」




バタンッ!!