私とアデルバ様の婚約を発端として始まった一連の事件から、月日は流れた。
 今の私は、ウェディバー伯爵夫人、イルヴァド様の妻である。色々とあった訳ではあるが、無事に結婚することはできたのだ。

「……平和なものですね」
「……リフェリナ嬢? どうしたんですか?」
「いえ、色々と思い出していて」

 ここに至るまでの間は、色々と大変だった。私は改めて、そんなことを思っていた。
 もっとも、私自身はそこまで大変だったという訳ではない。ルルメリーナのように実際に動いていた者と比べると、私の苦労なんて大したものではないといえる。

「ルルメリーナ嬢のことなどですか?」
「まあ、それもあります」
「今は歌姫として頑張っていますからね」
「一応成功はしていますね。意外にも老若男女問わず人気がありますし……」
「分け隔てがない人ですからね」

 ルルメリーナは、歌手となった。今は色々な所で、歌を歌っている。
 といっても、歌の実力はそこまで秀でている訳ではない。どちらかというと人間性によって、人気を勝ち取っているといった感じだ。
 貴族からの人気は元々もあった訳だが、今となっては平民からの支持を彼女は集めている。貴族では嫌われていた女性からの人気も、結構あるそうだ。

「まあ、ルルメリーナが嫌われていたのは、婚約者を取られたりするからですからね。平民の場合、そういったことはありません。ルルメリーナのことを可愛いと思った所で、それが叶わぬ恋だと理解する訳ですから」
「なるほど、パートナーを取られないなら、そこまで問題はないという訳ですか?」
「あくまで一つの可能性ですけれどね……ああ、そうだ。色々とあったと言えば、お兄様だってそうです」
「ああ、ラヴェルグ様も結婚しましたからね」

 お兄様は、結局ネセリアを妻に迎えた。ネセリアは結構ごねたものの、なんだかんだ言ってそれを受け入れたのだ。
 それから二人は、仲良くやっている。私が思っていた通り、相性は良かった。穏やかにラスタリア伯爵夫妻として、過ごしているようだ。

「ネセリアは優れた使用人でしたが、ラスタリア伯爵夫人としても優秀です。彼女がいる限り、ラスタリア伯爵家は健在だと確信できます。もちろん、お兄様の力もありますが……」
「……それを言うなら、ウェディバー伯爵家だってそうですよ。リフェリナ嬢がいる限り大丈夫だと、僕はいつも思っています」
「イルヴァド様……それは、嬉しいですね」

 私はイルヴァド様と、他愛のない会話を交わしていた。
 こうして二人で穏やかに過ごす。それは何よりも、幸せな時間だ。
 こんな時間が、ずっと続いてくれればいいと思っている。それが私の何よりの望みだ。

「さてと、そんなご兄妹達が近々訪ねて来る訳ですから、気を引き締めないといけませんね。リフェリナ嬢の夫として、情けない姿は見せられません」
「イルヴァド様は、いつも自慢の夫ですよ?」
「そう言っていただけるのは嬉しいですけれど、単純にラスタリア伯爵家の訪問ですからね。僕としては気が気ではないのです」
「まあ、そうですよね……でも、単純に家族に会いに来るというだけですよ? イルヴァド様も、私達にとっては家族なのですから」

 その望みを叶えるためにも、これからも頑張っていくとしよう。
 イルヴァド様の苦笑いを見ながら、私はそんなことを思うのだった。


END