「リフェリナ、お前は一体何を言っているんだ?」
「お兄様、これは冗談の類ではありませんよ。私は本当に、ネセリアがお兄様の結婚相手として相応しいと思っているんです」

 お兄様は、私の言葉に懐疑的なようだった。
 確かに、私の言っていることが普通ではないことはわかっている。ただこれには、きちんとした理由があるのだ。

「まずネセリアは、貴族の血筋です。ヘリセン男爵家の一員ですから、それ程問題がある婚約という訳ではないでしょう」
「まあ、そこまで不満が出るものではないことは確かだ。そもそもヘリセン男爵家とラスタリア伯爵家は懇意にしている。ネセリアとヘリセン男爵との関係も良好だ。その辺りはなんとでもなる」
「ネセリアは、ラスタリア伯爵家にずっと仕えてくれています。彼女が信頼できるということは、お兄様もわかっているでしょう。心強い味方です」
「なるほど、確かにネセリア以上に信頼できる女性はいないか」

 私の説明に対して、お兄様は感心したように頷いてくれた。
 ある程度は、納得してくれたのだろうか。その表情は、先程までと比べるとかなり前向きであると思える。
 ただ、もう一人の当事者であるネセリアの方は固まっていた。彼女の方は、まだ理解が追いついていないらしい。

「ネセリア、大丈夫かしら?」
「……リ、リフェリナ様、急にそのようなことを言われても困ってしまいます。私はラスタリア伯爵家に仕える身である訳ですし」
「あなたが焦るなんて珍しいわね。でも、そういう反応をされることはわかっていたわ。当然困るでしょうね」

 ネセリアの反応は、予想の範囲内であった。
 彼女は恐らく、お兄様以上に混乱しているだろう。ラスタリア伯爵夫人なんて、考えていなかっただろうから。
 ただ、幼い頃から仕えてくれていた彼女はお兄様の相手としては打ってつけだ。気難しい所もあるが、その辺りも上手くやってくれると思う。

「まあ、これは単に案の一つでしかないから、そんなに重く捉えなくても大丈夫よ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ」

 とりあえずネセリアには、それらしいことを言っておく。
 いつも基本的に冷静沈着なネセリアだが、彼女は案外流されやすい所がある。こうやって誤魔化しておいて、後は外堀を埋めていけば説得することはできるだろう。

「お姉様、なんだかまた悪いことを考えていますか?」
「いえ、そんなことはないわよ?」

 もっとも、これはお兄様や両親が反対するなら、そもそも成立しないことではある。
 だから私も、別にそこまで重く捉えてはいないし、もちろん悪い顔もしていない。ただラスタリア伯爵家の未来を考えているだけだ。