「なるほど、話は大体わかったわ」

 馬車の中で、私はルルメリーナから話を聞いていた。
 妹はまだ悩みを上手く噛み砕けている訳ではないようである。
 それを深堀してくれたノルードやネセリア、そしてイルヴァド様には感謝しなければならない。その会話がなければ、もっと難解なことになっていただろう。

「まあ、お父様とお母様も、何も考えていないという訳ではないと思うわ。ルルメリーナは、人気である訳だし、婚約の話はいっぱい来ているでしょう」
「そうですかぁ? それはなんだから嬉しいですね。人気だなんて」
「でも、その辺りについては色々と難しいと思うの。相性というものもある訳だし……」

 貴族として、ルルメリーナという人間は、少々難があるとしか言いようがない。
 アデルバ様のような人を嵌める才能はどうやらあるらしいが、それ以外で貴族の妻などは務まらないだろう。
 人には向き不向きというものがあるが、ルルメリーナは貴族には向いていないといえる。人を惹きつけるカリスマはあると思うが、政や腹芸は少し難しい。

「多分、ルルメリーナに他にやりたいこととかがあるなら、それを尊重してくれるとは思うわ」
「やりたいこと、ですかぁ?」
「ええ、何かないのかしら?」

 ラスタリア伯爵家としては、ルルメリーナのそのカリスマ性はありがたいものだ。下手に結婚させるよりも、飼い慣らす方が有効かもしれない。
 そう思って発言したのだが、これは良くない思考であるような気もする。まるで私が、ルルメリーナの婚約を快く思っていないかのようだからだ。
 もしかして、私はお兄様以上にルルメリーナを嫁にやりたくないなどと思っているのだろうか。いや確かに、半端な者と婚約なんてさせたくないとは思っているのだが。

「うーん、それなら歌を歌ったりとかいいかもしれませんねぇ」
「歌?」
「ええ、歌姫みたいなの、結構憧れているんです。どうですかねぇ?」
「それは……」

 ルルメリーナの発言に、私は面食らっていた。
 その案が、割と悪くないものだと思えたからである。
 歌手というものは、この国でも結構強い力を持つ。人気者なんかは、それなりに影響力があるくらいだ。

「……いいんじゃないかしら?」
「え? そうですかぁ?」
「ええ、もしもルルメリーナが本気で歌手を目指すなら、私は応援するわ」

 ルルメリーナの人気から考えれば、確実に人は集められる。
 妹は歌唱力も悪い方ではない。磨けば光る可能性もある。
 そうして矢面に立ってもらって、ラスタリア伯爵家の評価を高めてもらう。もしかしたらこれは、名案かもしれない。