「ルルメリーナ、入ってもいいかしら?」
「あ、お姉様ですか? どうぞどうぞ、入ってください」

 私が部屋を訪ねると、ルルメリーナは快く受け入れてくれた。
 とりあえず、私は部屋の中に入っていく。ここはなんでも、ルルメリーナがアデルバ様と婚約している時から使っている部屋であるらしい。
 そのことは、部屋の中に入ってすぐにわかった。中はルルメリーナの色に染まっていたからだ。

「なるほど、あなたがこっちの屋敷に残った理由がなんとなくわかったわ」
「え? どういうことですかぁ?」
「ほら、ラスタリア伯爵家の屋敷はまだ復旧中でしょう? だからこっちの部屋にいるのではないかしら?」
「ああ、言われてみればそうかもしれません」

 私の言葉に、ルルメリーナはゆっくりと頷いた。
 どうやら、本人には自覚がなかったようである。そういう所は彼女らしい。

「アデルバ様のせいで、随分な状態になりましたからねぇ。お姉様の部屋に、留まっているのも楽しいですけれど、ちょっと申し訳ないですし」
「別に気遣いは不要なのだけれどね……でも、こっちに留まりたい気持ちはよくわかったわ。居心地は良さそうだし」

 私とルルメリーナの中は良いのだが、趣味がそこまで合うという訳でもない。
 私の部屋で暮らしていくというのは、数日は良くてもずっと続くのは嫌なのだろう。
 それなら他の部屋を使うという手もあるのだが、既にルルメリーナの部屋となっているこちらの方が早い。ルルメリーナは、無意識にそう思っていたのかもしれない。

「でも、いつまでもイルヴァド様に迷惑はかけられないわ。私と一緒に帰らないと、お父様やお母様が怒るわよ?」
「えー、それは嫌ですねぇ。帰ります」

 両親のことを出すと、ルルメリーナは少し慌てていた。
 両親――特にお母様が怖いのだろう。その気持ちは、私にもわかる。

 ただ、ルルメリーナは理解していない。本当に怒ると怖いのは、お父様の方だと。
 しかしそれは、別に知らなくても良いことではある。ルルメリーナにその怒りが向けられることは、まずないだろうし。

「それで、ルルメリーナは悩んでいるみたいね?」
「あ、聞きましたかぁ」
「ええ、そのことについては帰り道で話すとしましょうか。幸い、時間はいっぱいある訳だし」
「あ、はい。そうしてもらえると助かります」

 私の言葉に、ルルメリーナは笑顔で頷いてくれた。
 大方のことは聞いているが、改めて聞くことで何かわかることもあるかもしれない。馬車の中で、この妹とゆっくりと話すことにしよう。