ノルードとネセリアは、ウェディバー伯爵家の屋敷にいた。
 こちらに何故かルルメリーナが留まっているため、二人もいざるを得なかったのである。

「イルヴァド様、本当に申し訳ありません。何故かわかりませんが、ルルメリーナ様はこちらにいたいらしくて……」
「まあ、使用人の方々と結構仲良さそうに話していましたから、楽しくなったということでしょう……それに、ルルメリーナ嬢は僕の義妹になる訳ですからね。別に構いませんよ」
「ありがとうございます」

 ノルードは、イルヴァドに対してゆっくりと礼をした。
 ルルメリーナは、時々突拍子のない行動をすることがある。それはノルードにとっては、結構な悩みの種ではあった。

「そういえば、ノルードさんは昔からラスタリア伯爵家に仕えているのですよね?」
「え? ええ、ネセリアとともに幼い頃から仕えさせてもらっています。といっても、その頃はそこまで仕事という意識を持てていた訳ではありませんが……」
「そうなのですか?」
「お遊戯という程に楽観的なつもりはありまえせんでしたが、今考えるとその程度のレベルのものだったといえるでしょう」

 イルヴァドは、ノルードのことを聞いてきた。
 自分に興味が向けられると思っていなかったノルードは、少し面食らってしまう。
 かつてウェディバー伯爵だったアデルバは、そのようなことはしなかった。そういった点から、彼とイルヴァドの違いを、ノルードは理解していく。

「しかし、何故そのようなことになったのですか?」
「ラスタリア伯爵家で、父と母が住み込みで働いていたからです。ラスタリア伯爵ご夫妻のご厚意で、僕達はあの屋敷で生まれ育ちました」
「なるほど、それはすごいことですね……ちなみにご両親はどういった経緯でラスタリア伯爵家に?」
「先代のラスタリア伯爵と、僕の祖父であるヘリセン男爵が懇意にしていて、その縁もあって三男だった父が仕えることになったようです」
「あなたも貴族の家系だったのですね」
「そうですね。といっても、家を継いだのは伯父ですから」

 ノルードとネセリアにとって、現在のヘリセン男爵は伯父にあたる。二家の繋がりは、今でも途絶えてはいない。伯父も弟夫妻や二人のことを、気にかけてくれている。
 ただ、一族を継いでいるのはその伯父であり、彼は子宝にも恵まれている。さらには次男の伯父もいるため、ノルードやネセリアにはまず爵位などは関係がない話だ。
 このまま二人で、使用人として生きていく。ノルードとネセリアの考えは、そんな所だ。