私とイルヴァド様の婚約は、無事に決まった。
 私はその報告を両親やお兄様にするために、ラスタリア伯爵家に帰って来ている。
 ちなみにルルメリーナは、ウェディバー伯爵家に滞在中だ。きっとあちらの家で、寛いでいることだろう。

「まあ、無事に婚約が決まって良かったよ。あまり心配はしていなかったけれどね」
「そうなのですか?」
「イルヴァドと一番相性が良いのは君だからね。何があったとしても、丸く収めてくれると信じていたんだ」

 お父様は、私に対して笑顔を向けてきた。
 そこまで信頼してもらっていたのは、普通に嬉しい。
 ただそれよりも嬉しいのは、相性が良いと思われていることだ。

 自分でもその自負は少なからずあったが、お父様からのお墨付きをもらえるとさらに自信が出てくる。
 私とイルヴァド様なら、きっと良きウェディバー伯爵夫妻になるのではないか。そんなことを思って、私はつい笑顔を浮かべてしまう。

「お母様やお兄様も、そのように思ってくださっていたんですか?」
「ええ、私も大体は同じ意見かしら。まあでも、今回はなんというか、イルヴァドらしいことを言っていたみたいね」
「ああ、そうなんですよ。本当にイルヴァド様は気遣いの人でして……」
「そういう固い所は、オルデンによく似ているかもしれないわね?」
「そういえばそうかもしれないね」

 お母様は、昔を懐かしむような目をしていた。
 お父様にとって親友だったオルデン様は、お母様にとっても馴染み深い人である。今は亡き彼に、夫婦揃って思いを馳せているようだ。
 そういうことをされると、私も少し感傷に浸ってしまう。オルデン様は、私達のことを見守ってくれているだろうか。

「あの、お兄様はどう思われているのですか?」
「うん?」
「先程から、視線が少し痛いのですが……」

 そこで私は、お兄様に問いかけてみた。
 すると鋭い視線が返ってくる。その視線の理由は、実の所わからない訳ではない。

「やはりお兄様は、私の婚約に反対なのでしょうか?」
「いや、異論があるという訳ではない。イルヴァドのことは、俺もよく知っているからな」
「本当ですか?」
「俺がお前に嘘をつくはずはないだろう。俺はこの婚約を祝福している。ただ、それでも納得でいないものがあるというだけだ」

 お兄様は、私やルルメリーナのこととなるとおかしくなる。妹思いな人なのだ。
 ただイルヴァド様のことは、認めてはいるのだろう。
 その二つの感情が重なり合って、このよくわからない反応をしているようだ。まあ祝福してくれているのは嘘ではないだろうし、ここは素直にその言葉を受け止めておこう。