「……」

 イルヴァド様は、私が伸ばした手を見つめながら、真剣な顔をしていた。
 私との婚約を受け入れるかどうか、改めて考えているのだろう。そういう真面目な所も、彼の魅力的な面の一つだといえる。

「……本当の所、僕もリフェリナ嬢とは婚約したいと思っています」
「……それは」
「リフェリナ嬢は、魅力的な女性ですからね……妻になってもらいたいと、思ったことは何度もあります」

 イルヴァド様の言葉に、私は少し面食らうことになった。
 利益とか不利益とか、そういったことが含まれていない彼の素直な言葉は、私の心に刺さってきたのである。
 なんというか、少し気恥ずかしい。もしかして私の先程の言葉に、イルヴァド様も同じような気持ちになったのだろうか。

「しかしだからこそ、リフェリナ嬢を――ラスタリア伯爵家の方々を巻き込みたくないと思っていました。ただそれは、愚かだったのかもしれませんね。僕はただ、強がろうとしていただけだったということでしょう」
「イルヴァド様……」
「無礼な態度を取ってしまい、申し訳ありません。こちらからもお願いします。リフェリナ嬢と婚約させてください」
「ええ、もちろんです」

 イルヴァド様は、ゆっくりと私の手を取ってくれた。
 彼の表情は、安心したように和らいでいる。それはもしかしたら、ウェディバー伯爵家を一人で背負う重圧から、解放されたからだろうか。
 そうだとしたら、私としても嬉しい。イルヴァド様には、これからも私達のことを頼ってもらいたいものだ。

「うふふっ……」
「……うん?」
「あっ……」

 そこで私とイルヴァド様は、顔を見合わせることになった。
 すっかりと話に夢中になっていて、私達は忘れていたのだ。この場に、ルルメリーナがいるということを。

「いやー、良かったですね。お姉様」
「え、ええ、そうね。本当に良かったと思っているわ」
「イルヴァド様、お姉様のことを幸せにしてあげてくださいねぇ? 不幸にしたら、私、怒っちゃいますから」
「もちろんです。必ず幸せにしますとも」

 ルルメリーナに全てを聞かれていたという事実は、少し恥ずかしい。
 ただ、彼女の言葉は素直に嬉しい。私の幸せを願ってくれていることが、心から伝わってくる。

「でも、少し寂しいですねぇ。お姉様がいなくなるなんて……」
「ルルメリーナ……大丈夫よ。結婚するのはもう少し先だし、例え結婚した後でも、いつでも会いに来てくれればいいのだから」
「そうですかぁ? それなら、そうさせてもらいますね」

 ルルメリーナと比べられることによって、苦労することもあった。
 しかし私は、この純粋な妹のことを姉として愛している。その気持ちは揺らいだことはない。
 私に幸せが訪れたように、彼女にも幸せが訪れて欲しい。その笑顔を見ながら、私はそんなことを思うのだった。