「……なるほど、イルヴァド様は私達のことを気遣ってくださっているのですね?」
「む……」

 少し考えた結果、私はイルヴァド様が何を考えているのか理解した。
 恐らく、彼は私やお父様の考えることなどお見通しであるだろう。結構長い間一緒に暮らしてきた。私がイルヴァド様のことを理解できるように、その逆もあり得るはずだ。

 考えがわかっている場合、彼がどのように考えるかこちらも予測することができる。
 彼はきっと、こう考えるはずだ。私やお父様に迷惑をかけたくないと。

 ウェディバー伯爵家の巻き添えで、ラスタリア伯爵家にも被害が出る。その可能性が、ないとは言い切れない。
 またラスタリア伯爵家の助けもなく、ウェディバー伯爵家が持ち直す可能性もある。
 その二つの可能性から、イルヴァド様はラスタリア伯爵家を頼らないことを選んだ。恐らく、そういうことだろう。

「イルヴァド様のお気持ちはありがたく思います。しかしながら、それはいらぬ気遣いというものです」
「いらぬ気遣い?」
「私達だって、リスクは承知の内です。そもそも、婚約とはそういうものでしょう。それに関して、ラスタリア伯爵家は一度失敗しているとも言えます」

 アデルバ様との婚約は、良いものであったとは言い難い。あれは失敗であったし、ラスタリア伯爵家に何も利益をもたらしてはくれなかった。
 そのように、婚約は必ず成功するようなものではない。誰と婚約しても、リスクは伴う。だからそれを気にする必要なんてないのだ。

「一度失敗しているなら、もう一度失敗するのは避けるべきなのではありませんか。どちらかというと、ウェディバー伯爵家は沈む可能性の方が高いような気がしますが」
「お父様やお母様、お兄様などの助けがあっても、ですか?」
「それは……」
「ふふ、イルヴァド様はやはりお優しいですね。私達のことを悪くは言えませんか」

 私の言葉に、イルヴァド様は面食らったような表情をしていた。
 彼は既に、以前までと同じような態度になっている。やはり私達を巻き込まないために、敢えて冷たい態度だったということだろう。
 それに私は、自然と笑みを浮かべていた。やはりイルヴァド様とは、そのように親密でありたいと思う。

「私は、そんなイルヴァド様と婚約したいと思っています。それに関しては、利益とか不利益などは関係なく、私の気持ちではありますが……」
「リフェリナ嬢……」
「もう一度考えてもらえませんか? イルヴァド様……」

 私は、イルヴァド様との婚約を望んでいる。
 彼のような人と夫婦になれるのは素敵なことだ。色々と困難はあるかもしれないが、それでも幸せな婚約であると思う。
 だから私は、イルヴァド様に頷いてもらいたい。そう思って、私は手を伸ばす。するとイルヴァド様は、それをじっと見つめていた。