「……私とイルヴァド様の婚約は、ラスタリア伯爵家にとって有益なものなのでしょうか?」
「なるほど、ウェディバー伯爵家の現状を気にしているんだね?」
「当然です。今のウェディバー伯爵家の立場は、はっきりと言って悪いのですから」

 私は、とりあえずこの婚約について心配なことを聞いておくことにした。
 それは、必要なことだと思っている。ラスタリア伯爵家が不利益を被るような婚約には、反対するべきだからだ。

「もちろん、ウェディバー伯爵家の置かれている状況は理解しているつもりだ。ただ、それは別に悪いことばかりではない。弱っているウェディバー伯爵家を取り込めるかもしれない」
「取り込む、ですか?」
「悪評というのも、それ程長く続くものではないさ。ウェディバー伯爵家には、国王様のお墨付きもあるからね。普通にしていれば、悪いことも言われなくなるだろう。そうなる前に、ウェディバー伯爵家をラスタリア伯爵家の傘下としておきたい。実質的に支配するということだね」

 お父様の言葉に、私は少しだけ嫌な気持ちになった。
 貴族の婚約など、そういった駆け引きの場でしかないことはわかっている。ただ、その対象が家族のように思っているイルヴァド様なので、乗り切ることができないのだ。

「そうするためには、弱っている今しか隙がないということだ。早い所、君とイルヴァドとの婚約を成立させて、ウェディバー伯爵家に取り入っておきたいんだ」
「それは……」
「そういう考え方を、他の貴族達もしているかもしれない」
「え?」

 淡々と言葉を発していたお父様は、そこで表情を変えた。
 その表情に、私は理解する。先程述べていたのは、建前ということなのだろう。
 どうやら私は、あまり冷静ではなかったらしい。イルファド様のことだということもあって、少しはやる気持ちがあるのかもしれない。

「……つまりこの婚約は、イルヴァド様を守ることに繋がるということでしょうか?」
「どう考えるかは、リフェリナ次第さ。もちろん、ラスタリア伯爵家としては先程のことを実行するつもりだ。ただイルヴァドを助けるようなことはしない」
「お父様や家を継ぐお兄様が、イルヴァド様のことを無下に扱うとは思いません。支配するという言葉に嘘偽りはないのでしょうが、尊重してくれると思っています」
「さて、それはどうだろうか?」

 今回の婚約は、イルヴァド様を助ける意味でも必要なものだ。
 今の彼に味方は少ない。ほぼ孤立しているといえるだろう。そんな彼を助けるためには、繋がりが必要なのだ。
 その繋がりを作る役目を私が担えるというなら、嬉しいことである。私はイルヴァド様のことを支えたいと思っているのだから。