「兄上のことは、仕方ないことだったと思います」

 隣に座るイルヴァド様は、神妙な面持ちで言葉を発していた。
 場を仕切り直すということで、私達も客室で待機することになった。
 それは良かったことだ。私もイルヴァド様も、それなりに堪えている。落ち着くための時間は、必要だっただろう。

「しかし、どれだけ確執があっても、やはり身内である兄上の死は、中々に心にくるものですね」
「……それは当然のことだと思います。敵ではあっても、近しい人ではありましたからね」
「リフェリナ嬢も、きっと堪えていますよね。すみません、僕ばかり色々と言ってしまって……」
「いえ、お気になさらず」

 玉座の間に比べると、イルヴァド様も落ち着いてきているようだった。
 それに私は安心する。結構立ち直れないかもしれないと、思っていたからだ。
 しかしそれは、杞憂だったということだろう。イルヴァド様は、どこまでも強い人だ。

「しかし、問題はカルメア様ですよね? かなり傷ついているようでしたが……」
「……母上は兄上に対して、愛情を持ってはいたということなのでしょうね。ただそれは、意外という訳でもありません。母上は兄上にはかなり執着していましたから」
「そうなのですか?」
「ええ、まあ、それはもしかしたら父上に対する復讐として、血の繋がっていない兄上をウェディバー伯爵に据えたかったということなのかもしれませんが、優遇していたことは確かです」

 イルヴァド様は、ゆっくりと語り始めた。
 彼とカルメア様――母親との関係は、今までそこまで深く聞いたことはなかった。
 兄とともに対立の対象だったため、割り切った関係であるとは思っていたのだが、実際の所どうなのだろうか。

「イルヴァド様に対して、カルメア様はどのように接していたのですか?」
「僕に対する母上の態度ですか……まあ、良いものという訳ではありませんでしたね」
「それは……」
「僕に対しては、そこまで興味を持っていなかったように思います。兄上と違って、僕には価値を見出していなかったのかもしれません」

 イルヴァド様は、とても冷たい目をしていた。
 彼とカルメア様の関係は冷めている。その目からはそれがよく伝わってきた。
 それは当然といえば当然かもしれない。興味を向けてこない母親なんて、あまりにもひどいものだ。きっとイルヴァド様も、かなり傷ついたことだろう。

 私は隣にいるイルヴァド様の手を、そっと握り締めた。
 なんとなく、そうするべきだと思ったのだ。
 イルヴァド様は、それを受け入れてくれる。私の判断は、間違っていなかったということだろう。