「当然といえば当然ではありますが、私にはアデルバが夫との子供ではないかもしれないという疑念はありました」
「疑念か」
「ええ、ですがそうではないと信じていました。自分に言い聞かせていたのです」

 カルメア様は、少々大袈裟に身振り手振りを交えて言葉を発していた。
 それは恐らく、国王様の同情を誘おうとしているのだろう。
 この状況を覆せないということは、彼女もきっとわかっている。だからこそ、被害を抑えられるように、情状酌量を狙っているのかもしれない。

 それはもちろん、悪い手という訳ではないだろう。この場においては、有効な手であるといえるかもしれない。
 ただ彼女は、真の意味で状況を理解していないといえる。国王様は今回の件で、二人を許す気など最初からないのだ。
 故にそれらは、無駄な努力ということになる。いやそれは流石に、言い方が悪いだろうか。

「私は確かに間違いを犯しました。そのことについて、申し訳なく思っています。しかしながら、このアデルバのことを、私は愛しています。誰の息子であるかなど、関係はありません。それは母親であるならば、当然のことです。この子の出自について、私は語りたくありませんでした。それはこの子を不幸にすることだからです」

 カルメア様の演技力は、中々のものだった。
 事情を知らなければ、今の彼女は子供のことを思う真摯な母親に見えるかもしれない。
 ただ国王様は、とても冷たい目をしている。事情を知っているからからか、単にそういった気持ちを捨てているだけなのか、カルメア様の言葉はまったく響いてないようだ。

「カルメアよ。お前の気持ちはよくわかった。どうやら、反省の意思などはないようだな」
「反省の意思がない? いえ、決してそのようなことは……」
「今回の件は、王国によって調査させてもらった。当然のことながら、オルヴェア男爵家の長男であるバンダルからも話を聞いた」
「なっ……!」

 国王様の言葉に、カルメア様の表情は変わった。
 その焦ったような表情からは、今の言葉が彼女にとってまずいものであることが伝わってくる。
 王家の調査については、私やイルヴァド様もそれ程知っている訳ではない。国王様は、一体どのような事実を握っているのだろうか。

「奴は情けない男だったそうだ。王家からの遣いに、自らが行ったことをぺらぺらと喋ったらしい。全面的に協力する代わりに、自分への罰は許して欲しいとな」
「そ、そのようなものの虚言を信じるというのですか?」
「虚言か……しかしだな。こちらにはれっきとした証拠というものがあるのだ」
「それは……」

 国王様は、懐から手紙を取り出した。
 その手紙に、カルメア様は目を丸めている。つまりそれに、覚えがあるということだろう。