「悪いが、君は僕の婚約者として相応しくないと思うんだ」
「……え?」
「君との婚約は、破棄したいと思っている」

 葬儀などが終わって、ウェディバー伯爵を正式に引き継いだアデルバ様は、私に対して信じられないことを言ってきた。
 しかしアデルバ様は、涼しい顔をしている。彼の隣にいる前ウェディバー伯爵夫人カルメア様も、それは同じだ。

「アデルバ様、それはどういうことですか?」
「理由ならきちんと述べただろう。君は僕の婚約者として相応しくないと」
「相応しくないというのが、どういうことなのかと聞いているのです。私の何が、あなたに相応しくないというのですか?」
「端的に言ってしまえば、顔だよ」
「顔?」

 アデルバ様の言葉に、私は面食らってしまった。
 まさか容姿について述べられるなんて、思ってもいなかったことだからだ。
 顔が好みではないということだろうか。そんなことで婚約を破棄しているなんて、馬鹿げた話としか言いようがない。

「言っておきますが、アデルバの好みという話ではありませんよ」

 そんなことを私が思っていると、カルメア様が鋭い言葉を挟んできた。
 彼女は、鋭い視線を私に向けてくる。私が言うのもなんだか、この人にも中々に威圧感がある。

「カルメア様、それはどういうことですか?」
「あなたの人相が悪いという話をしているのよ」
「人相?」
「ええ、伯爵家の夫人というのは、伯爵家の顔ということよ。あなたのような目つきの悪い人がウェディバー伯爵夫人なんて、考えたくないことだわ」

 カルメア様は、自分の目つきの悪さを棚に上げてそんなことを言ってきた。
 その主張は、あまり理解できるものではない。人相なんて、そこまで重要なものだろうか。もちろん、無関係とは思わないが、それにこだわるのはおかしな話であると思える。

「僕達の望みは、君の妹だよ。リフェリナ」
「妹……ルルメリーナのことですか?」
「あの子は、この私であっても可愛らしいと思える程の容姿をしています。顔の良いあの子の方が、このアデルバの妻には相応しいということです」

 アデルバ様とカルメア様は、ルルメリーナのことを言ってきた。
 顔の良さということなら、確かに彼女は私よりも上といえるだろう。少なくとも、社交界で人気が高いのは彼女の方だ。もちろん、その分敵も多い訳ではあるが。

「あの人はあなたをと強く望んでいましたが、アデルバも私もルルメリーナ派だということを覚えておいてください。ラスタリア伯爵家にも、そう提案します。それが受け入れられないというなら、今回の婚約はなしということにするつもりです」
「そ、そんな……」

 ウェディバー伯爵家の人々は、前ウェディバー伯爵の意思を無下にするつもりであるようだ。それは私にとって、とても悲しいことだった。