「母上の浮気相手――まあ要するに、兄上の父親ですが、オルヴェア男爵家の長男であるバンダルという男です。あまりいい噂がある人ではありませんね」
「……どのような人物なのですか?」
「小悪党というのが、丁度良いだろうな」

 カルメア様の浮気相手について、イルヴァド様もお兄様も辛辣なことを述べていた。
 お兄様は元々手厳しい人なので置いておくとして、イルヴァド様がそのように述べるということは、素行が悪い人であるのだろう。お父様も苦い顔をしているし、そう考えて良さそうだ。

「彼は今、もう既に結婚しており、息子もいます。母上との関係も続いていません。兄上が生まれた頃には、既に関係は終わっていたみたいですね……多分、バンダル氏自体は兄上が自分の子供なんて把握していないと思います」
「なるほど、まあカルメア様としても伝えるメリットはありませんよね……もう愛がなくなっているのなら猶更」
「ええ、僕としては結構怖いものでしたよ。何せ、僕もバンダル氏の子供である可能性があった訳ですからね。そうだったら、どうなっていたことやら……」

 イルヴァド様は、然るべき機関に依頼して血の繋がりを調査したそうである。
 それによって、彼自身はオルデン様の子供であると証明されているようだ。
 それは不幸中の幸いだったといえるかもしれない。ウェディバー伯爵家の血がそんな理由で途絶えるなんて、あまりに悲惨過ぎることである訳だし。

「今回の件を公表するということは、そのバンダルにも少なからず被害が及ぶ訳ですが……まあ、その点に関しても自業自得である訳ですから、オルヴェア男爵家にも報いを受けてもらいましょう」
「まあ、それは仕方ないことですからね……うん? オルヴェア男爵家って」

 そこで私は、あることを思い付いた。
 それを確かめるために視線を向けると、お兄様はゆっくりと頷く。ということは、私の予測は間違っていないということだろう。

「お兄様、オルヴェア男爵家はあの時ルルメリーナに絡んで来た令嬢の家、ですよね?」
「ああ、あの令嬢はそのバンダルの娘だ。今でもルルメリーナのことを恨んでいるらしい」

 私の質問に、お兄様は苦笑いを浮かべていた。
 とある舞踏会にて、ルルメリーナに絡んできた令嬢、彼女はオルヴェア男爵家の人間だったのである。
 婚約者がルルメリーナに恋心を抱き、その結果婚約破棄されたようだが、その恨みはまだ晴れていなかったようである。

 ただそれに関しては、逆恨みでしかない。
 そんな彼女が余計なことができないようにするためにも、オルヴェア男爵家には打撃を与えたい所だ。そういう意味で今回の件は、一石二鳥といえるのかもしれない。