「しかしお父様、そのオルデン様の恋心が今回の件に、何の関係があるのですか?」
「それについては、推測も含めなければならないのだけれどね……」
「推測、ですか」

 私の質問に対して、お父様は少し視線をそらした。
 あまり自信がないということだろうか。その表情からは、いくらかの迷いが伺える。推測ということもあって、そんな感じなのかもしれない。

「今回の婚約破棄については、カルメアの意思が少なからず含まれていると思うんだ」
「ええ、確かにカルメア様は、色々と言ってきましたが……」
「彼女にはもしかしたら、メルフェリナに対する嫉妬などがあったのかもしれない」

 お父様の言葉に、私は固まることになった。
 カルメア様の嫉妬なんて、今まで考えていなかったことである。
 ただ、私がお母様似であることから考えると、あり得ない話ではなさそうだ。

「もしかして、カルメア様はオルデン様に好意を持っていて、それで彼が、お母様似である私を息子の婚約者としようとしたことが、気に食わなかったということでしょうか?」
「そう考えることもできない訳ではないと思っている。それが全てではないだろうけれど、理由の一端を担っていたかもしれない。二人には言っていなかったけれど、カルメアはメルフェリナのことを前々から敵視している節があったんだ」

 そういえば、カルメア様は容姿のことをかなり気にしているようだった。
 もちろん、ルルメリーナは人気がある訳で、見栄えを優先した場合彼女をウェディバー伯爵家の妻に据えるという理論は、おかしいという訳でもない。
 しかしその裏には、お母様似の私、引いてはお母様に対するひがみがあった可能性はある。ただもしもそうだとしたら、少し歪んでいるような気もするのだが。

「リフェリナ嬢、一つ訂正しておきたいことがあります。母上は父上に好意を持っていたという訳ではないと思います」
「え? そうなのですか?」
「ええ、彼女としては、単純に気に食わなかっただけだと思います。曲がりなりにも、自分の旦那が他の女性に好意を向けているのが……兄上にウェディバー伯爵家の当主に据えようとしているのも、その一環だと思います。母上は、父上を否定したくてたまらないのです」

 イルヴァド様の言葉を聞いて、私は益々カルメア様が歪んでいると思ってしまった。
 ただある意味において、彼女は大物なのかもしれない。下らない嫉妬から、伯爵家一つの運命を狂わそうとするなんて、大したものである。