「言っておくけれど、これは僕の個人的な推測とか、そういったものではない。本人から聞いたことだ……僕達は同じ女性に恋心を抱いた。それをお互いに打ち明けたことがあったんだ」

 お父様は、少し遠い目をしながら話を始めた。
 恐らく、亡きオルデン様に思いを馳せているのだろう。そういう風に思えるということは、二人の間にわだかまりなどはなさそうだ。
 事実として、お父様とオルデン様は仲が良かった。恋敵だったなんて、まったく持って思えないくらいに。

「もちろん、最初は複雑な気持ちだった。何せ、無二の友が同じ女性に思いを寄せていたのだからね。困惑してしまったさ」
「それは……そうですよね」
「だけど、僕達は不思議と険悪になるようなこともなかった。それでも僕達が親友であることは変わらなかったんだ……まあ、僕達は貴族であるからね。想い人と結ばれるなんて思っていなかったのもあるのだろう。そして仮にどちらが幸運に恵まれたとしても、必ず彼女のことを幸せにできると信頼し合っていた」

 貴族であるお父様やオルデン様の結婚は、当然政略的なものになる。だから争い合っても意味はない。それは確かに、理解できる考え方だ。
 ただだからといって、仲良くできるとも限らない。そう簡単に割り切れるものではないはずだからだ。
 結局の所、険悪にならなかったのは二人だったからなのだろう。既に強固な友情があったからこそ、争いは起きなかったのではないだろうか。

「……結果的に、父上はその幸運に恵まれた訳ですか?」
「自分で言うのもなんだが、幸運という訳でもないかもしれない。メルフェリナは選ばされたそうなんだ。僕とオルデンのどちらと婚約するかを。どちらと婚約しても、政略的には良いと判断されたみたいでね」
「それでは、お父様はお母様に選ばれたのですね……」

 お父様が述べた事実は、オルデン様にとってはひどく残酷なことであっただろう。
 恋愛的な意味で、徹底的に負けを突きつけられた。きっと辛かっただろう。
 しかしオルデン様は、それを乗り越えた。お父様とずっと仲が良かったのだから、それは間違いない。

「……だけど、オルデンはそれを祝福してくれていた。それで僕達の友情が揺らぐことなどはなかったんだ」
「そうですね。それは間違いないと思います。父上はラスタリア伯爵を無二の親友だと言っていましたからね……」

 イルヴァド様は、悲し気な目をしながらそう言った。
 息子である彼から見ても、二人の仲は確かであるようだ。その友情は、最後まで揺らぐこともなかったのである。