私は、イルヴァド様とお兄様とともにお父様の部屋を訪ねていた。
 イルヴァド様が例の件について話がしたいというと、お父様はそれを快く受け入れた。
 恐らく、二人の間には事前に何かしらのやり取りでもあったのだろう。折を見て、私とお兄様には事実を伝えるべきだとか、そういったものが。

「さて二人とも、これから話すことはここにいる四人だけの秘密、ということにしてもらいたい。特にお母さんには秘密にしておいてくれ」
「母上に、ですか?」
「ああ、言っておくけれど、僕が浮気していたとか、そういう話ではないからね。もちろん、彼女の方が浮気していたとか、そういう話でもない」

 怪訝な視線を向けるお兄様に対して、お父様は少し焦ったように言葉を発した。
 ただ、そんなことは言われなくてもわかっていることだ。お父様が浮気なんて、するはずがない。

 政略結婚ではあるらしいが、お父様はお母様のことを愛している。逆も同じだ。
 私達の前でも構わず惚気る二人に、浮気なとの疑いをかける余地などはない。それが私とお兄様の共通の見解であるだろう。
 ただ、だからこそわからなくはなる。今回は一体、どういった類の話をされるのだろうか。

「父上、ならば一体、どういう意味なのですか? 母上に隠しておかなければならないことなど、そう多くはないように思えるのですが」
「……まあ、絶対に話してはならないことという訳でもないのかな? 本人はもしかしたら、薄々勘付いている節もあるし」
「お母様が薄々勘付いている?」
「とはいえ、これは故人の名誉のためにもあまり広めたくないことではあるんだ。今回二人に話すのは、それが事件に少なからず関係していることであるからだ」

 お父様の言葉に、私とお兄様は顔を見合わせた。
 これから何の話を聞かされるのか、まだいまいちピンと来ていない。なんというか、先程からお父様の歯切れが悪すぎる。

「父上、前置きはもう結構ですから、本題を話してください」
「もちろんだ。えっと……前ウェディバー伯爵オルデンが、僕の友達だったということは二人も知っていることではあるだろう。彼とは昔から交流があったんだ。君達のお母さん――メルフェリナともね」
「お父様、それってまさか……」
「ああ、オルデンはメルフェリナに好意を抱いていた。僕と同じようにね」

 私とお兄様は、再度顔を見合わせることになった。
 どうしてお父様が、歯切れが悪かったのかも理解することができた。そんな話なら確かに、話しにくいだろう。特にお父様の立場からは。