アデルバとカルメアの二人は、王家からの遣いと対峙していた。
 王家が自分達に抱いている懸念は、絶対に解消しておかなければならないものだ。
 当然のことながら、王家と敵対していいことなど何もない。この国の最高権力者とは、仲良くしておくのが基本である。

「……それで国王様は、我々に対してどのような疑念を抱いているのですか?」

 武器の大量発注について指摘されたアデルバは、少し怒気を孕んだ言葉を発していた。
 それに対して、遣いは特に表情を変えていない。そういったことは、慣れているということだろう。はたまた、自分が害されることがないとわかっているのかもしれない。
 実際の所、アデルバやカルメアには彼を害することはできないことである。そんなことをすると、それこそ王家と対立することになるからだ。

「もちろん、謀反の疑いです」
「謀反なんて……そんな馬鹿げたことを考える訳がないでしょう」
「しかし、武器の大量発注とは穏やかではありませんからね。考慮するべき事柄ではあるでしょう」
「失礼ですが、それは短絡的な考えというものです。たった一つのミスでそのように疑われてしまったら、こちらとしても困ってしまいます」

 アデルバは、遣いに対して焦ったように言葉を発した。
 王家とことを構えるつもりなど毛頭ない彼にとって、謀反の行いなどという疑いはどうやってでも振り払いたいものだったのだ。

「もちろん、国王様も一つのミスで疑っている訳ではありません。様々なことを考慮した上で判断したのです。今回私がこちらに来たのも、それらの確認のためですから、どうか落ち着いてください」
「そ、それは……わかりました。しかし、ミスが一度ではないとはどういうことですか?」
「最近のウェディバー伯爵家では、書類上のミスが多発しています。一つ一つは軽微にミスではありますが、そこには何かしらの意図を感じざるを得ません」
「ミスですって?」

 遣いから見せられた資料の数々に、アデルバは驚愕することになった。
 そこには確かに、ウェディバー伯爵家のミスの数々が記されている。ただそれらは、アデルバにとって見覚えがないものだった。
 故にアデルバは、それらがルルメリーナに任せていたものだと気付いた。彼はいくつかの書類を彼女に一任していたのである。

「これは婚約者が……」
「……もちろん、あなたの婚約者が新環境に慣れていなかったということは考慮するに値するとは思います。しかし、そもそもの話ではありますが、そういった書類はご当主も確認するべきなのではありませんか?」
「そ、それは……」
「これがミスであるというなら、少なくともそれで防げたはずです。どちらにしても、ウェディバー伯爵家に対する評価は下げざるを得ません」

 アデルバの言葉に、遣いはゆっくりと首を横に振った。
 それに対して、アデルバとカルメアはその表情を歪めるのだった。