私は光石(みついし)せいら。光石グループの当主の娘で、跡取りだ。
 生まれたときには生き方のほとんどがすでに決められていて、例えば結婚相手も決まって()()。過去形になってしまったけれど。

 だから、私にとってはじめてできた「友達」が青空ひよりだった。
 光石グループに引き寄せられたのではなく、親から紹介されたのでもなく、ただ私を見て仲良くしてくれたのは後にも先にも彼女だけだ。

 確かはじめて会ったのは、入学式より前、寮の部屋にお菓子を持ってあいさつに来たとき。ひよりとは部屋が隣で、ルームメイトがコミュ障なところも一緒だったから、最初はご近所づきあいのノリで話していた。

 ひよりは薄灰色の髪と澄んだ灰色の瞳を持つザ・普通みたいな外見の女の子で、だから当時の自分は「この学園も案外レベルが低いのかしら」だなんて思っていた。あり得ない。往復ビンタしたい。
 少なくともひよりは私より才能豊かな人物だ。
 テストの点はお世辞にも高いとは言えないけど、「吸収力」「応用力」「発想力」あたりがずば抜けているから、少ない労力ですぐ高みへ行けると思う。

 実際、中1の文化祭で、本番当日にシンデレラ役を任されたときも難なくこなしていた。

 が、ひよりを慕う人や信頼する人はいても、ひよりが天才だと気づいている人はあまりいない。

 たとえば中1の「シンデレラ」は半ば伝説のようになっているけれど、それはひよりが伝説になっているというより、王子様役の美貌を中心に語り継がれている。

 ひよりには才能を隠す才能もあるというのか。
 つくづくとんでもない人だ。
 本人の前で言ったら謙遜されそうだけど。