その日は眠れなかった。
 理由として、青空ひよりに対する罪悪感と後悔とで自責に駆られていたのがひとつ。

 もうひとつは、つい先日まで抱いていた夕陽まむへの感情や夕陽まむと過ごした記憶が、ごっそり消えていることへの恐怖だ。――実は自分が青空ひよりを遠ざけていたのは夢でした、なんて幻想を抱きそうになるから本当にタチが悪い。
 夕陽まむが何かしらの魔法を使ったとしか思えない。が、授業ではそんな魔法は教わらなかったし、図書館の辞書にも載っていなかった。

 可能性としては、それが夕陽まむにしか使えない魔法であるということ。
 だとすれば、夕陽まむに直接聞かなければ事実が明らかになることはない。

 はあ、とため息をつく。

――プルルルル

 着信。夕陽まむからだった。

 ちょうどいいとも思うし、お前は今さら何を話す気だとも思う。
 夕陽まむへ抱いていたプラスの気持ちは、綺麗にマイナスの方へと反転していた。
 それは単に夕陽まむの洗脳が強かった証明でもあるし、あるいは、すべてが夕陽まむのせいであってほしいと思ってしまう自分の心の弱さの現れかもしれない。

 そんなことを思いながら、指は「応答」を押した。

『単刀直入に言うから、はいかYESで答えてくれる? 話したいことがあるんだけど、電話では話せない内容で、だからあなたの部屋に行きたいの。良い? というかもう部屋の前にいるから、つべこべ言わず開けてちょうだい』

 また大きなため息が出た。

「……玄関だけなら」