問題は4年目。めずらしく転入生が現れた。
 それだけでも教室の空気は変わるものだけど、空気が悪い理由は他にあって。

 というのも、夕陽まむという転入生は、魔族で、それも魅了魔法の使い手で。
 積極的に魔法を使い、恋人たちの仲を引き裂いたことで、生徒たちに嫌われているらしかった。

 この学園があるのは、魔族に社会に溶け込む方法を教えるため。
 だから魔族はなるべく魔法は自制するようにと入学時に説明を受ける。が、大人に言われてではなく自らできるようにならねば意味がないと、「多少のトラブル」では大人たちは注意しないのが常だ。

 家どうしの政略結婚すらも引き裂いているので、もう「多少のトラブル」の範囲は越えていると思うが、なぜ大人たちは動かないのだろう。……まさか義母や義兄が絡んでいて、動きたくても動けないとか? あり得る。

 ともかく、大人たちが動かないなら自分たちの手でと、女子たちは奮闘しているらしい。そんな話をひよりから聞いた。その少し疲れたような表情を見て自分も協力を申し出ると、夕陽まむに近寄らないのが一番の協力だとひよりは言った。
 夕陽まむと一言でも話した男子は、みな洗脳されたかのように彼女に恋焦がれ、一部のイケメンは彼女のハーレム要員になるらしい。

「怜は顔がいいから、たぶん取り巻きにさせられると思う。嫌なんだ、怜が他の女の子と並んで笑っているのを見るのは」

 ひよりはすっかり打ち解けた口調で独占欲らしきものを見せた。それが嬉しくて、ひよりと一緒に居る時間が減ったせいで溜まっていた不満は、すっと消えた。

 けれど、その約束は守れなかった。

 どうしても避けられない対面があった。
 そしてそこで、どうやら俺は、洗脳されたらしい。