無彩色の日々を過ごすことになんの感情も抱かなくなったある冬の日のことだった。
 俺・白銀(しろがね)(れい)がひよりと出会ったのは。

 その年の春に白銀学園へ入学する人だけが集まった、入学説明会。
 義兄だか義母だかの嫌がらせで「見えるけど座れないイス」をあてがわれた俺は、空気椅子でしのいでいた。

 そこまではいつも通りだったけれど、そこからは違った。

「……えーっと、お辛そうですけど、大丈夫ですか?」

 隣の席の人がそうやって声をかけてきたのだ。
 うまく事情を話すことはできなかったが、彼女は何かを察したのか「手、握りましょうか?」と聞いてきて。筋力的に空気椅子は全くつらくなかったけど、なんとなくその日は彼女の手を握りながら説明会の終わりを待った。

 あたたかさに触れたのはいつぶりだっただろう。
 彼女の瞳や髪は灰色。そこらの風景よりも無彩色に近いはずなのに、やけに色鮮やかに見えた。

 その日、俺は久々に自ら行動を起こした。
 灰色の彼女と簡単に接触できる立場がほしかった。部屋割りでも何かしらの嫌がらせが来ると思ったから、灰色の彼女と同じ部屋になることを「嫌がらせ」だと認識してもらい、同室にしてもらおうと思った。

 今思えばかなりガバガバな計画だったが、「面白そうじゃあないか」と義兄が乗ったこともあり、無事に彼女と同じ部屋になれた。

 ☆

 入寮日。ちょっと髪型を整えて、彼女よりも先に部屋に着いて、そわそわと片付けに勤しんでいると、ドアが開く音がした。

 振り返る。彼女だ。

 彼女は少しまごついてからにこやかに言った。

「はじめまして。青空ひよりです」

 説明会のことは覚えていないらしかった。

 そこでようやく気づいた。
 俺は、彼女の事情を考えずに、勝手にこの部屋を決めてしまった。
 彼女を不快にさせてしまう、いや、もう不快にさせたあとかもしれない。

「……すまない、なるべく迷惑はかけないようにする。それと、よろしく」

 そんな声が口から漏れた。
 彼女はきょとんとしていた。

「えっと、お名前は……?」

 あ。

「白銀怜だ。怜はりっしんべんに号令の令」

 うまく敬語が使えず、そこで、今までまともな教育を受けていなかったことを思い出した。
 外見を取り繕うのは無茶だとようやく気づいたので、まず事情をすべて打ち明けることにした。

 彼女は思ったよりも真剣に受け止めてくれて。
 改めてよろしく、と話を締めくくると、彼女は「こちらこそよろしくね」と言って笑った。
 可愛いと思った。

 それから、ベッドをどっちにするかとか、料理当番とか、お風呂の扱いをどうするかとかの話をして、雑談もした。人付き合いが苦手だと言ったら、彼女はご近所付き合いは任せてと片目をつむった。あとでウィンクというキメ顔だと知った。

 新生活は、というか3年間はずっと楽しかった。