俺は白銀(しろがね)(れい)
 肩書きを並べるとしたら、「白銀家に跡取りの異母弟として生まれ、冷遇されてきたのに、跡取りがやらかしたせいでいきなり次期当主になった奴」とかになるんだろうか。
 とにかく面倒な出自で、家庭環境も面倒で、だから性格もひん曲がっている。と思う。

 だって、ひよりなら多分、光石(みついし)せいらにもっと寄り添った言葉をかけていた。

 相手に寄り添った言葉をかけるのは、俺にとって、テストで77点ぴったりを狙ってとったり、魔法で空を飛んだりするよりも難しいことだ。ひよりの言動を参考にして、なんとか「ひよりは死んでいない」と伝えずに会話を終えただけ褒めてほしい。

 ひよりの生存がバレれば、今度こそひよりが本当に殺されてしまう可能性だってある。
 白銀家のごたごたに巻き込んでひよりは危険な目にあったのだから、ひよりにはせめて、しばらく白銀家の毒牙にかからないところで過ごしていて欲しかった。

 そのためには、誰もひよりの居場所を知らないことが重要で。

 直接的なことが何もできないのは覚悟していた以上にきつかった。
 過去の、彼女を裏切った自分を、何度も夢に見た。

 自分が彼女の幸せを願ってもいいのか、何度も悩んだ。

 悩んで、悩んで、どこでねじれたのか気づけばひよりの生活の跡を作るようになった。
 ふとした拍子にひよりが戻って来そうな風景が必要だと、そんな直感があった。

 ……今の自分は、何かしら狂っているとは思う。
 元から普通とはかけ離れていたけれど、おかしさの方向が変わった。

 だからもう、ひよりに好かれる対象ではないかもしれない。

 過去の自分ならひよりに好かれていたというのも、実は何かの間違いだった可能性はある。
 それに、そもそもひよりを裏切った自分が許されてはいけないと思う。

 それでも。
 ひよりが今まで誰かを幸せにしてきた分、ひより自身も幸せになってほしい。そうじゃないとおかしい。

 それで、もし万が一、自分との幸せを望んでくれていたら。
 今度は絶対に守り抜く。


 そうでないなら、………………どうしようか。