ひより以外に大切な友達は居ない。
 けれど普通に家族がいて、光石グループを継いで一生を共にすると決めていて。

 万が一、ひよりが死んでいたとしても、私は、生きていける。
 立ち止まったり、悲しんだりすることはあっても、また進むことができる。

 だが白銀怜は違う。ひよりが居ない人生に意味はない、と何度も言っていたし、彼は家族にも冷遇されている。白銀家のゆく末にも興味がない。たとえどんなに手段を間違えても、最終的にはひよりのそばで日々を過ごすだろう。

 ……敵わないなぁ。

「ひとつだけ聞かせて。あなたは、白銀家のことをどう思っているの?」

 彼は一瞬、質問の意図がわからない様子で固まってから、言った。

「何も思っていない」

 これから白銀家の当主になる人間とはとても思えないセリフ。

「……そう」

 お邪魔しました、と言って部屋を出て、自室に戻って、ぼんやり寝支度を済ませて毛布をかぶった。

 本当に、白銀怜の目に映るのはひよりだけなんだろう。
 そしてひよりは、そんな彼を支えたいと過去に言っていた。

 互いを想う2人の言動に嘘はないと思う。

 一方の私は、ひよりではなくこれからの人生を取った。


 ああ、私は物語の主人公じゃなくて、脇役なんだろうな――と、そんなことを思った。


 深くかぶった毛布が、涙で濡れた。
 私はきっと、ひよりの「特別」にはなれない。