私・光石(みついし)せいらは寮の部屋を出て、隣のドアの前に立った。

 ひよりが学園にいる間は、一度も訪れなかった彼女の部屋。

「すみません。白銀(しろがね)(れい)さん、お願いしたいことがあるので、部屋にお邪魔してもよろしいでしょうか?」

 白銀怜。
 ここ白銀学園の理事長を務める魔族の一家・白銀家の血を引いている男。

 過去に白銀怜の兄と婚約関係を結んでいたときに聞いたが、彼は家で兄と比べて冷遇されていて、まともな英才教育は受けていないらしい。
 のだが、しれっと私と同じ一番上のクラスに居る。なぜ。

 ちなみに接点が多いわりに彼との交流はゼロに近い。
 ひより、彼、私の3人で過ごすこともあったが、気づいたら皮肉の応酬になっていた。

 彼は、いわば「兄側」である私に良い感情を抱いていないようだったし、単純に私と彼は「ひよりと2人きりの時間」を奪い合う者どうし、しかもお互いに魔族なので同族嫌悪みたいなものがある。

 それにしても……ノックしても声をかけても反応が無い。
 ひよりが居なくなってから彼の引きこもりは加速したそうだから、外出したとは考えにくいし、そもそも部屋の中から魔族の気配がダダ漏れなのでまず間違いなく居留守だ。

「失礼いたします」

 強引に中に入り、部屋の様子を目撃した私は、はっと息をのんだ。