「今日はありがと。楽しかったわ」

「こちらこそ。運転もありがとう」


「じゃあ、また。連絡する」

「……うん」



ひらりとあっさり手を振って、古野はハンドルに手をかけた。

私はシートベルトを外して、車のドアハンドルへと手を伸ばす。



このまま車を降りれば、もう最後。

二度と、古野とは会わないような気がした。

古野はまた、って言ったけれど、また、っていつのこと?

連絡する、って言ったけれど、連絡はいつしてくれるの?


本当に"次"はあるの?


なんにも響かない口約束。


「あの、」 私は咄嗟に口を開いていた。


どうせこれが最後なら。

最後になってしまうのなら。

大切に閉まっておいた気持ちを、私は守りたいと思った。
あの時確かに恋をしていた私自身を、私は、守りたいと思った。