「由美さん……好きな色は?」
「……白」

「動物は好き?」
「大きめでふわふわした子が好き。犬ならゴールデンとか、プードルとか。猫ならラグドールとか」

「じゃあ……僕も?」
「……可愛いと思って、つい」

「ふふ。いつも男前な由美さんが本当はこんな素直で可愛いんだもんなぁ……ずるいなぁ」

覆いかぶさるように私と質問を続ける宙也君の顔は終始笑顔で、とても気分がよさそうだ。二人ともお酒が回っていて顔は赤いし、自分が何言ってるのかよくわからないくらいに強い眠気も襲ってきている。

「べ、つに……今日だけかもよ。」
「そんなはずないでしょ。きっと由美さん……だもん」

見透かされたように自分の事を小さな声で囁かれるのは、とても恥ずかしい。ましてやこの可愛い顔で、店のアイドル的存在のトイプードルに、ベッドの上で言われるなんて、だれが想像するだろう。

「由美さんさ、本当はこういう強引さの方が、好きでしょ……」
「え……っ知ら、ない……っ!」

 素直じゃない由美は勿論「好きだ」とは言えず、顔を少し逸らして返事をした。
 けれどその返事を待たない宙也に、さっき噛まれたのと反対の手首を、歯を立てて噛まれた。天邪鬼な返事とは裏腹に、高い返事が唇から漏れる。

「……ほら、やっぱり可愛い」

 バーで飲んでいたのは男前風にカッコつけた自分で、今晩はトイプードルのように可愛い男の子を連れ帰ったはずなのに。
 部屋幅いっぱいに詰められたクイーンサイズのベッドの上に居るのは、とても悪い笑顔をしたウェーブヘアの狼と、その豹変っぷりに期待してしまう獲物のような由美の姿だけだった。


***

Side 宙也

 何も纏っていない背中に、ぞくりぞくりと快感が流れ込む。
 意中の彼女は腕の中でくったりとして動かず、うっすらと汗をかいたまま、スースーと寝息を立てていた。いつも店で少し絡む程度で、大して深くはない関係。

 最初の出会いは、やけにカッコつけてる女性がいるな、程度の意識だった。オーナーからは馴染みの客とだけ紹介された。

 出勤回数を重ね、互いに顔を覚えるようになったくらいの頃だろうか。女性用のお手洗いで気分の悪くなった客を介抱したり、靴擦れしたと騒ぐ新人スタッフに「よく頑張ったね!」と絆創膏をこっそり渡していたり。
 気付けば彼女の良い所ばかりが目に付くようになり、カッコつけているのは仕事モードが抜けていない時なのだということもすぐに理解した。
 いつからか段々と興味が湧き、ドアを開ける音がするたびに、彼女がやってきたのではと期待した。

 バーでのバイトを始めて2年、観察している中で手に入れた彼女の情報は、由美さんという名前と、スーツ屋さんの店長で、男性社会の中で必死にもがいているということくらいだった。

 彼女の男前の仮面は数か月に1回、たいていは可愛らしい雰囲気の男の手で剥がされる。
 同じ男と2回以上うまくいっている姿を見たことは無い。

 男が女を持ち帰った先ですることなんて大体ひとつしかない。でも、俺はその先の彼女の顔を知らない。そしてその事実に、選ばれるはずのない宙也は毎回イライラさせられていた。

 そんなクソみたいなナンパ男に引っ掛かる由美なんて見たくなくて、彼女の本当の素敵な所を知らない男になんて触らせたくなくて。
 でも、ただそんな姿を見ながら、彼女も男も馬鹿だな……と必死に誤魔化してきた。