その翌日。
暮名くんから一通のメールが届いた。今は夏休みである。部活動などで忙しい暮名くんとは毎日のように会えない。
その為、毎晩のようにメールを交わしていた。お互いの近況を報告するだけの簡潔なメール。しかし今日は違った。

「俺さ、花火職人になりたい。それで玲の笑顔を守りたい。俺が作った花火で、玲を感動させて、泣かせたい。」

そう送ってきたのだ。私は勿論驚いた。思ってもみない、発言だった。
本心を語ると、私が暮名くんの将来のレールを潰してしまったようで、申し訳ない気持ちは拭えない。素直に喜べなかったのが事実。
けれど、その言葉は本心だったようで、毎日近況を報告してくるようになった。お父さんとの関係も良好なようで、私まで嬉しかった。
学校も始まり、文化祭の準備に終われていた。
私のクラスはメイド喫茶、暮名くんのクラスはお化け屋敷をやるそうだった。暮名くんはお化け役をやるそうで、度々衣装を着て私を怖がらせた。
その時の私たちは間違いなく、線香花火で言うところのあの陽の瞬間だった。
暮名くんは度々し花火を試作し、成功しているようだった。

「玲には完成したの、見せたい。」

と言って、私には見せてくれなかったけれど。
そんな多忙な時期でも暮名くんと私はよく遊びに出かけた。
幼少期に作ったお互いの穴を埋めるように、私たちはずっと一緒に過ごしたのだ。
憧れだった放課後デートも数えられないほどした。
手だって何回繋いだか分からない。あの大きな腕に閉じ込められて、早くなった鼓動を聞くこともあった。
その度に暮名くんは歯の浮くようなセリフをいとも簡単に言ってのけ、私の頬を赤く染めた。文化祭の準備で男子生徒と話すだけで、その腕の力は強まる。

「俺以外の男と喋んないで。妬く。」

私の肩に顔を埋めながら、そう何回も言っていた。
暮名くんだって、学校中の人気者だ。その尊いルックスと弾けるような笑顔を見るため、上級生も一年生のフロアにやってくる。
そうやって女の子たちと話している度、私の心は騒つく。急に靄がかかり、自分の中の悪魔が蠢くような感情に駆られる。
だけど、暮名くんは私よりも上手。
本当にずるい人だった。そんな暮名くんを見るだけで、私の靄は瞬く間に晴れていくのだ。

だけど、いいの?
他の男の子と、私話してるよ?
取られるかもしれないよ?
いいの?
お願い。取られないでよ。

言葉が溢れて止まらない。

俺だけ見てて。そんな顔他の男に見せないでね。ずっと一緒にいて。そう言っていたのに。
どうして貴方は目を覚まさないの?
私、取られちゃうよ。
それが嫌なら、お願い。目を覚まして。そしてあの笑顔で私に笑いかけてよ。
抱きしめて。
キスだってしてよ。
光蘭祭りよりも深いキスを。あれ以来していないでしょう。
お願い。