私と暮名くんは、クラスは違うものの、同じ学年だ。
人数の少ない田舎の高校だからか、クラスは五つしかない。女子に囲まれて、歩く暮名くんを何度も見かけることになる。
今日もモテてるなぁ。
やっぱり、私とは違う世界の人なんだな…
そんな現実を目の当たりにして、胸が針を刺されたかのようにチクっと痛む。
けれど、暮名くんはそう思っていなかったらしい。
あの日から、私と目が合う度に

「咲口さーん!」

と眩しいくらいの笑顔で、手を振ってくれるようになった。そう挨拶するのが、当たり前のように、自然に。
初めは戸惑った。
知り合いにはなったけれど、住む世界が違うのだ。
小学校からそう。私が友達だと思っても、相手は違う。こんな誰からも嫌われている私を、可哀想だと思っていただけ、という事が幾度かあった。
ある種のトラウマ。
だから、高校では大人しくしていた。あまり喋らない人、という印象を残せるようにした。もちろん、友達なんていない。
どう接すればいいか分からなかった。
けれど、その笑顔に釣られるように、私も手を振り返すようになった。その初めは小さく、遠くから挨拶するだけだったのに、気がつけばその距離は縮んでいた。
話をすることも多くなった。

「咲口さんっ」

と呼ぶその声に、何度も救われた。楽しくて仕方がなかった。
いつも下ばかりを向いて、ボソボソ話す私とは対照的な、華やかに歌うような話し方だった。私まで、自然と笑みが溢れる。
家族から不当な扱いを受けて、涙を溜めた翌日でも、暮名くんと会えば笑える。
自己嫌悪さえも、暇をくれる。