暮名くんも、そんな私と正反対の人間だった。

「危ない!」

切羽詰まったような、危険を知らせる低い声が、私の頭上に降ってきた。

え…?

驚いて顔を上げると、目の前にはサッカーボールが迫ってきていた。まるでスローモーションのように動くサッカーボールに気を囚われていると、ゴンという鈍い音と共に、顔に痛みが走った。

「っ…いたっ」

私は思わず、手で顔を覆う。
昔から怪我をすることが多かった。その理由は、私が危険を感知する能力が、人よりも劣っているから。
その重く、ハンマーで殴られたような痛みに、視界が歪んでいく。ボールが触れた部分が、ドクドクと熱く波打つ。

「すみません。大丈夫ですかっ」

私が蹲っていると、一人の男子生徒が駆け寄ってきた。
その声は、さっきの声とよく似ている。
顔を上げると、青いユニフォームを着た男子生徒が、申し訳なさそうに体を折り曲げている図が目に入る。
きっと、この男子生徒が蹴ったボールなのだろう。

「…はい。」

そう言うと、体を起こした男子生徒と目が合う。
すると、男子生徒は血相を変え、目にかかるほど伸びた前髪を、大きな手でわしゃわしゃと掻き乱している。

なに、この人。

その様子に疑問を感じ、痛みに耐えながら、顔を覆っていた手を見ると、赤い液体がついている。
まさか、鼻血?

「はあ。ついてない、本当に。」

私は保健室へ行こうと、体を起こした。
男子生徒は、まだ考え込んでいるのが視界に映る。

まあ、謝ってくれたんだし…

そう、校舎側へ体を翻した時だった。
ふと腰に温かいものが触れたかと思うと、次の瞬間には、私の足が宙に浮いていた。
鍛えているからだろうか。太く逞しい片腕が、私をお姫様抱っこするように、太ももの裏に回され、もう片方の腕は、私の背中を支えるように、無造作に肩に添えられる。
夏なのに、体が密着して、余計に体温が上がってしまう。

「え?何して…」
「すみません、走ります。」

私は、今その男子生徒によって、お姫様抱っこされている、と分かった時には、男子生徒に抱えられながら、保健室までの道のりを辿っていた。
長身ゆえの足の速さだった。

落ちそう、怖い…っ

頬に感じる空気が恐怖を倍増していく。
目をぎゅっと瞑り、男子生徒の腕を掴んで耐えていると、いつの間にか保健室についていた。
校舎裏から、保健室までは結構な距離がある。
男子生徒の額には、汗が滲んでいた。

「着いたっす。」

そう、私をぎこちない手つきで地面に下ろし、また前髪をわしゃわしゃと掻いていた。その長い前髪からチラリと覗く耳が少し赤くなっている。
少しだけ、笑みが溢れた。

「すみません。勝手に走っちゃって。でも、それ早く処置しねぇと思って。」

申し訳なさそうに、男子生徒は話した。
礼儀正しいのか、何度も私に向かって頭を下げている。そんな経験は初めてのことで、戸惑う。
そして、私の腕をふわりと掴み、保健室の窓を三回叩く。