私には、彼氏がいる。
高校で出会った、大好きな人。
性格も、声も、顔も、身長も、手の大きさも、少し冷たい体温も、髪色も、全てが愛おしくて、仕方がないそんな人。

私は、家族に虐げられている。
気がついたら、家族に嫌われていた。逆鱗に触れてしまった記憶もないのに。
可愛くて仕方がなかった弟も、物心がつくにつれ、私のことを軽蔑の眼差しで見るようになった。
でも、きっとその理由は分かっている。

私は、昔から上手く話せない。
自分の気持ちを、他人に伝えることが出来ない。
何をしても、普通の人より何倍もの時間がかかってしまう。
そう。私は、障害者なのだ。
ずるくて、醜くて、気持ちの悪い、障害者。
学校でも度々いじめられてきた。
けれど、そのいじめには理由があった。ただ、気に入らないという理由だけではない。
初めは普通のクラスメイトだった。
けれど、私がおかしいということに次第に気がついていく。
すぐに口篭り、突拍子もないことを、至って普通にやってしまう。グループでのレポート作成だって、私だけが上手に出来ない。
クラスメイトが、自分から離れていく、あの寂しさは、ずっと慣れない。
いつも、近くにいた存在が一瞬にして消えてしまうような。
自分を支えていた地面が、一気に剥がれ落ちるような。
絶望に近い感覚だ。
そしていつしか、私に対しての疑問が、醜さや、憎しみに変わっていく。
学校につけば、何かと罵声を浴びせられる。
机の中の荷物だって、ゴミ箱に乱雑に廃棄されている。
トイレの汚水を顔にかけられる。
そんな毎日が、顔を出す。
辛かった。私は何もしていないのに。
私は、普通にしていたのに。嫌われることなんてしていない。
けれど、私には反抗することも許されない。
「気持ち悪い」とか、「おかしい」という言葉は全て正論なのだから。
私の人生に、幸福というものはなかった。
友達だって出来なかった。ドラマや映画で見た、友達と笑って話すということが出来ない自分が悔しかった。
自分が大嫌いだ。
今すぐにでも殺してやりたいくらいに、憎い。
自分の容姿も、性格も、全てが、吐き気がするほど嫌いなのだ。周りが、最も簡単に行えることが出来ない。
でもそんな自分を殺す勇気すら持ち合わせていない、醜い人間。
 
そんな、私を変えてくれたのが、暮名くんだった。
暮名翔。
私と、同い年の男の子。
初めて出会ったのは、高校入学して、半年くらいだろうか。
私は花壇に水をやっていた。
校舎の裏側にある、陽の光が通らない場所に寂しく置かれている花壇。
ジメっとした湿気を含んでおり、その場にいるだけで、汗が滲み出そうな場所。生徒が通ることすら、滅多にない。だけど、私はそんな墓場のような地獄に追いやられている花壇が、可哀想だと思った。
陽の光を求めているのに、それが手に入らない悔しさ。
こんなにも美しい可憐な花を咲かせているのに、見向きもされないその花壇が私の同情を得たのだろう。
その花壇の存在を認知してから、私は毎日水をやりに来ていた。
その前に広がる運動場では、サッカー部が活動をしている。
青いユニフォームを着て、運動場を駆けている。チームメイトと笑い合って、まさに青春。
私とは、違う陽の世界にいる人たち。
羨ましい。私もあんな風に駆け回れたらな。
何度、そう思ったことだろう。