とうとう夏祭りの前日になってしまいました。
「おかぁさーん。私の浴衣どこにある〜?朝顔のやつ。」
「あぁ〜…どこだっけ?たしかここらへんに。」
沙紀家は片付けやものの整理が苦手だからいつもいつもこんなことになってます。
「あぁ!あったあった。あったよ〜一華。」
「あった?お母さん。…あ、ほんとだ。ありがとう!」
これで明日の用意は完璧!あとはカフェに行って洋平を殺してくるだけ!
「ちょっと出かけてくるね〜。」
「気をつけなさいよ〜。」
カフェまでの道のりはちゃんと覚えてます。しばらく自転車であまり車の通らない道路を走ったら、左に曲がって土手沿いにまっすぐ。しばらくしたらカフェ「三日月」が見えてくる。玄関から玲奈と洋平が出てきたのが見えた。
「あ、一華きたきた〜。洋平、一華来たよ〜。」
「え?あ、ほんとだ〜。一華〜久しぶりや……」
「死ねぇぇ!ようへぇぇぇい!!」
私は叫びながら、洋平に向かって自転車で突っ込んでいった。
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!!…いってぇぇぇ!!まじでなににしてくるん。…えちょっと待って、なんでそんなに怒ってるん?俺なんかした?」
「お前が帰って来なかったら夏祭りまだ救いあったのに…なにしてんねん洋平!!」
私は洋平の腹にもう一発お見舞いしてやった。
「うぐぅっ!俺が何をしたって言うんだよ。」

「あっはは!つまり一華はおれが玲奈と一緒に回っちゃうと気まずくなりそうだからおれのせいにして殴ったわけだ!」
店の椅子に横たわりながら洋平が笑いながら喋る。
「いや~ほんとごめん!!なんか頭の中がこんがらがっちゃってつい…」
「つい殴ったにしてはしっかりとダメージは残ったよ?」
「ほんとにごめんて。」
こころなしか玲奈もめちゃくちゃ非難の目で見てくる。そりゃそうだ私が勝手に勘違いして一方的にボッコボコにしたのだから。
「まさか目の前で息子が殴られるとはね〜。」
ヘラヘラと笑いながら恭平さんがホットミルクを運んでくる。2人は先に来ていたからすでにコーヒーのブラックが2杯置かれていた。
「でもさ〜夏祭りは2人だけで回ると思っちゃうじゃん。」
「んなわけねぇだろちゃんと回るわ。永遠に眠りにつく?一華。」
怒りを押し殺したような笑みを浮かべて玲奈が迫ってきた……あれ?玲奈の声なんか浮ついてない?もしや…
「おいお前何ニヤついてんだよ。コーヒーのブラックぶっかけるぞおい。おい!小娘!」
「アハハハハ。君も小娘じゃん。」
「うるさいうるさい!」
「いや~ほんと幸せそうで何よりです。」
「あぁもう!もう本題に入ろう。」
「本題って?」
何も知らない洋平がきょとんと首をかしげている。
「最近……」
「ごめん玲奈、私から言わせて。」
「…分かった。」
「最近転入生が学校に引っ越してきたの。」
「へぇ~賑わうね〜。」
「で、その転校生が私の幼馴染にすごく似ていて名前も同じなの。」
「ほう。うん?転校生と幼馴染が同一人物という可能性は?」
「残念ながらない。」
「根拠は?」
洋平は普段はヘラヘラしてるのにこういうところは目が光ってる。
「まず1つ目の理由としては名字が違う。」
「うーん。名字が違うって言うのはあまり当てにならないかな。2つ目は?」
「2つ目の理由として目の下のほくろがない。」
「ふむ…まだ理由はあるよね?」
「幼馴染は右利きなんだけ転校生は左利き。」
「そっか〜。……だったら同一人物の線はないかな〜。」 
「あと……」
「あと……?」
「幼馴染はすでに死んでる。」
「あ………そう。なんかごめんね。話がそれたね。それで、その転校生がどうかしたの?」
「初日に紅希と仲良くなって一緒に夏祭りに行くことになったの。」
「へぇ~。仲良くなればいいじゃん。」
「色々あって私は幼馴染に合わせる顔がないから。」
「え?でも同一人物じゃないなら喋れるんじゃないの?」
「なんか気まずいんだよね。」
「あぁね。そういえばその問題をおこした紅希はどこに?」
「紅希は塾。洋平に会いたそうにしてたよ。」
「そっかー。まぁ明日会えるしいっか。」
「そうだね。」
「で……君は俺に何を求めているのかな?」
やっぱり鋭い。
「明日転校生の子が楽しめるように盛り上げて欲しい。あと、途中で私と転校生が抜けれる状態にしてほしい。」
「分かった。気まずいんじゃなかったの?」
少し笑いながら聞いてくるからたちが悪い。
「確かめたいの。本当に本人かどうか。」
「そっか。うん…まぁ頑張りな。」
「うん。ありがとう。」
「あれ?玲奈寝ちゃってね?」
「あ、ほんとだ。」
「先に帰りな。女子は明日の準備とかもあるだろうし。玲奈はうちで見とくよ。」
「そっか。ありがとう。」
奥にいる恭介さんに届くように声を張る。
「ありがとうございましたー。」
カウンターから手を振ってるのが見えた。カフェを出ると
「ハァ……」
店を出るとため息が出てしまった。
親友に彼氏ができるってこういうことなんだなぁ…。
なんだかんだ玲奈が急に私の手から離れていったみたいだ。
「寂しいなぁ。」