窓の外から差し伸べてくる太陽の光。青春を心地よい夏色に染めてくれる蝉の鳴いた音。そしてこめかみから首へと流れ落ちる汗。今年も夏が来たんだと少しわくわくする。しかし………
 誠に残念ながら私が主人公の物語があるとするならその本は本屋さんで売る以前の本となるでしょう。なぜかって?言うまでもありません。
 私が何の変哲もない一般学生からカラーを3割型持ってった影の少し薄かれど薄すぎない微妙な人間であるからです。すいません少し早口になっちゃいました。
 「はぁ~。」
私にも出会いがあればいいのに。
「一華どうしたの?そんなため息ついて。」
この子は私の友達以上親友未満の悲しき人間、海月玲奈です。
「いや、私にも出会いがあったらいいのにな、と思ってさ。」
「一華は美人だから出会いはあると思うよ?」
「……顔面偏差値が56くらいの微妙な人に言われてもな。」
「アハハ、死ね?まあ私も出会いはあると言ったけど彼氏できるとは言ってないしね。」
「そちらこそ死んでくれて構わないかな。」
こういうふうに私と玲奈は軽口をたたき合える仲なのです。
 「そう言えば今年は今までよりも暑いらしいね〜」
「それ去年も一昨年も玲奈から聞いたよ。」
「そう言えば今日は転校生が来るらしいよ。」
玲奈の声につられ少しぴくっと私のポニーテールがはねる。
「え?まじ?男子?女子?」
「まじまじ。噂によれば結構なイケメンらしい。」
「おぉ~!え、クラスは?」
「ここここ、この組だよ。ちなみに軽音部に来るらしいよ!」
なんと耳寄りな情報!ありがたい!
「最高じゃん!イケメンで軽音なんて!」
「でもチャラかったりするかもよ?」
「じゃあ私チャラくないに一票!」
「じゃあ私はチャラいに一票!決まりね!」
そう行って玲奈は自分の席に戻った。
『キーンコーンカーンコーン!』
ガラララララと音を立てて先生が入ってくる。相変わらずこの先生はチャイムと同時に入ってくる。
「みんな席につけー。今日は転校生が来るぞー。」
やけに間延びした声。教師ならもう少ししっかりしてほしいものだ。まあこんなだからみんなから好かれているのだが。
転校生というワードのおかげでいつもよりもみんながスムーズに席についてくれる。
「静かにしろー。それじゃあ入ってくれ。」
またもやガララと音を立てて開いたドアを抜けた顔に、少し違和感があった。いや、少しどころじゃない。嘘だ。だって彼は、昔……いや、同一人物なはずがない。きっと他人の空似というものだ。だが、その考えを彼の左手によって黒板に書かれた白色の名前に絶句する。
「葉奈舞希です。よろしくお願いします。」
そして彼は私を見つけてにっこりと笑いかけた。あの笑顔を私は知っている。何回も…何回も見てきた。だけど本当に本人なら、私にはもう話す資格はない。だって私は彼を………。
 確かめないと。だけど残念ながら彼はすぐに囲まれてしまい結局今日は話しかけることができなかった。まぁあの顔と声ならみんなに好かれやすそうだ。