一話の続きシーン。
〇学校・教室(放課後)
悠馬「愛衣、お前は音無のことどう思ってんだよ」
愛衣「あたし!?」
音無が真っすぐ愛衣を見つめる。考え込む愛衣。
愛衣(どうって……そんなの考えたことないよ)
愛衣(だけど……)
愛衣「ごめん、音無くんとふたりっきりにしてもらえない?」
悠馬「は?なんで?」
愛衣「ちゃんと音無くんと二人で話したいから。お願い」
愛衣(音無くんはふざけて好きとか言う人じゃない)
愛衣(だったらあたしも真剣に音無くんに向き合わなくちゃ)
目を見合わせる胡桃と柊。
胡桃「わかった!あとは二人で話し合いな!」
柊「ほらっ、悠馬。いくぞ!」
納得いかなそうな表情の悠馬を引っ張って教室から出て行く。
振り返って愛衣を見つめる悠馬の顔には切なげな表情が浮かんでいる。
二人きりになり愛衣と音無が向かい合う。
愛衣「なんか悠馬がごめんね。根は優しいんだけど、昔から不器用なところがあって」
音無「大丈夫。二人の仲の良さは知ってるから。それに早瀬くんの気持ちも」
愛衣「悠馬の気持ち?」
音無「うん。本当は今日告白するつもりはなかったんだけど、このままじゃ早瀬くんに先を越されると思って」
愛衣「待って。なんでそこに悠馬が出てくるの?」
愛衣(悠馬はなにも関係ないよね??)
音無「気付いてないならいいんだ」
わずかに表情を緩める音無。
音無「一宮さんの気持ちが聞きたい」
音無が愛衣の顔を覗き込む。
長めの前髪から涼しげな瞳にドキッとする愛衣。
愛衣「えっと、正直に言うとね、あまりにも急すぎて音無くんのこと好きかどうか分かんない」
音無「……だよね」
小さく頷く音無。
愛衣「でも音無くんと話すのは楽しいし、一緒にいると落ち着く」
愛衣(ていっても、おしゃべりなあたしの話を音無くんはいつもうんうん聞いてくれてるだけなんだけど……)
音無「うん」
愛衣「音無くんの気持ちに今すぐは応えられないけど、あたし、もっと音無くんを知りたい」
愛衣「ていうかね、正直今、ものすーっごく驚いてる!だって音無くん、あたしのこと全然好きって感じしなかったもん」
音無「そう?自分なりに結構分かりやすくしてたつもりなんだけど」
やれやれと息を吐く音無。
愛衣「そうなのっ?あたしが鈍感だっただけなのかなぁ」
愛衣「いや、考えてもやっぱりわかんない」
愛衣「あたし、モテないし告白されたのも音無くんが初めてだからなぁ……」
愛衣がブツブツ言うのを温かい眼差しで見つめる音無。
愛衣「っていうか、分かりやすくしてもらってたのに、音無くんの気持ちに気付かないでごめんね!」
パチンっと手を合わせて謝る愛衣。
音無「謝んないでよ。俺、あんま感情表に出すの得意じゃなくて」
音無「それと、一宮さんはモテないわけじゃないよ。いつも早瀬くんにガッチリ周りをガードされてるから男が寄っていけないだけで」
愛衣「ん?悠馬がガード?」
首を傾げて不思議そうな愛衣。
愛衣「こういう経験ないからよく分かんないんだけど、やっぱりこの場で白黒つけるべきなのかな?」
音無「白黒?」
愛衣「あたし、音無くんに好きって言ってもらえて嬉しかったんだ」
愛衣「できればもっと音無くんのことを知りたいし、あたしのことも知ってもらいたい。そういう場合、どうしたらいいのかな……?」
真剣に音無とのことを考える愛衣。
音無はそんな愛衣を見つめて言う。
音無「一宮さん、これは俺からの提案なんだけど、お試し期間を設けるっていうのは?」
愛衣「お試し期間?」
音無「そう。一か月限定で付き合う。俺のこと好きになってくれたらそのまま継続で付き合う。もし無理だったら別れて友達に戻る。それでどう?」
愛衣「あたしはいいけど、音無くんはそれでいいの?」
音無「いいよ。俺のこともっとちゃんと知ってもらいたいから」
愛衣(恋愛経験がないからよく分かんないけど、あたし、もっと音無くんのことを知りたい!)
愛衣「分かった……!じゃあ、今日から一か月お願いします!」
ぺこりと頭を下げる愛衣。
音無「よかった……。チャンスをくれてありがとう」
ホッとした表情の音無。
愛衣「そんなそんな!こっちこそ、ありがとう!」
音無「俺、一宮さんに好きになってもらえるように頑張るから」
音無は力強く言って、愛衣の頭を優しく撫でて微笑む。
ボッと顔を赤らめて動揺する愛衣とは逆に落ち着きはらった余裕な表情の音無。
音無が今度はそっと愛衣の頬に触れる。
愛衣(音無くんの手……おっきくてあったかい……)
音無「照れてる顔、可愛い」
大人しいと思っていた音無の甘いギャップに驚きながらも、その言葉と態度に胸をキュンッとさせる愛衣。

〇朝・鏡の前で身支度を整える愛衣
バッチリメイクに長い髪を緩く巻いて整えて前髪を入念にセットする。
愛衣(音無くんってば、あたしのどこを好きになってくれたんだろ)
愛衣(でも、告白してもらえて嬉しかったな……)
愛衣(あたしと音無くんが彼氏、彼女?)
昨日の音無の「照れてる顔、可愛い」という言葉を思い出して「あぁああ!!ダメ、心臓がぁ」と悶絶する愛衣。

〇朝・登校中
隣の家から出てきた悠馬とばったり出会う。
愛衣「おはよ~!」
悠馬「はよ。なんか機嫌良さそうだな。昨日あの後音無となんかあったのか?」
悠馬は愛衣のことをチラっと見て何か言いたそうな顔。
愛衣「実はね、音無くんと付き合うことになったの!」
悠馬「……は?なんだよそれ」
途端眉間に皺を寄せる悠馬。
悠馬「お前、音無のこと好きだったのかよ」
愛衣「うーん、今はまだわかんない。昨日、ふたりで話し合って一か月お試し期間を設けることにしたの」
悠馬「は?お試し?」
愛衣「そう。あたし、まだ音無くんのこと知らないから。一か月後、正式に付き合うかどうか決めることになった」
悠馬「……じゃあ、まだ正式に付き合ってるわけじゃないってことか」
意味ありげに呟く悠馬。
悠馬「つーか、一か月限定とかお前音無に遊ばれて――」
悠馬が言いかけた時、愛衣のスカートの中のスマホが震える。
愛衣「あっ、音無くんだ!」
スマホを確認する。
【音無:おはよう。今日の放課後暇?】
【愛衣:おはよう!暇だよ】
【音無:どっか遊びにいかない?】
【愛衣:放課後デート!?】
【音無:うん】
【愛衣:やったー!楽しみにしてるね!】
音無が可愛いスタンプで【了解】と返す。
愛衣「ふふっ。音無くん、こんな可愛いスタンプ使うんだ。意外だなぁ」
音無とのラインのやり取りに胸を弾ませてにこにこ笑顔の愛衣を見て、ヤキモチを妬いて顔をしかめる悠馬。
〇学校・教室(放課後)
愛衣(一日、デートのことで頭がいっぱいで授業に全然集中できなかった……)
音無「行こうか」
愛衣「うん!」
音無に声を掛けられて笑顔で立ち上がる愛衣。
胡桃と柊に小さく手を振って音無と共に教室を出る。
クラスメイト達は愛衣と音無の姿を見て「えっ、あのふたりどうしたの!?」「まさか付き合ってんの!?」とざわつく。
悠馬も険しい顔で二人を見つめる。
彼氏との初めての放課後デートに浮かれる愛衣。

〇駅に向かって歩く二人
音無「そういえば、一宮さんって門限は?」
愛衣「特にないけど、遅くなる時は連絡すれば大丈夫」
音無「分かった。どこか行きたい場所ある?」
愛衣「うーん、ちょっとだけお腹が空いたかも。何か食べたい!」
音無「俺も。甘い物好き?」
愛衣「大好き!特にクレープ!」
音無「じゃあ、天気良いし駅前の店で買って近くの公園で食べる?」
愛衣「そうしよ!」
スムーズに行き先が決まってホッとする愛衣はわずかな違和感を覚える。
愛衣(うん?なんか音無くん、女の子の扱い慣れてる……?)
愛衣(歩くスピードだってあたしに合わせてくれてるし)
チラチラ横目に音無を見る愛衣。
音無が気付いて「ん?」と顔を覗き込まれドキドキする愛衣。
愛衣(ヤバい、めちゃくちゃ意識しちゃう!)

〇公園・ベンチ
愛衣「美味しい~!」
苺クレープを頬張る愛衣。隣で音無がハムサラダクレープを食べる。
愛衣「音無くん、もしかして甘い物苦手だった?」
音無「苦手じゃない。今日はこれの気分だっただけ。こっちも食べる?」
愛衣の顔の前にさりげなくクレープを差し出す音無。
愛衣「ありがとう~!うん、うまっ!」
がっつり口を開けてかじりついた愛衣の口にマヨネーズがつく。
ジッと愛衣の顔を見る音無。
愛衣(うわっ、今のは可憐にパクッて小さな口で食べるべきだった!)
音無の指が愛衣の顔に近付く。
音無は黙って愛衣の口についたマヨネーズを指で拭う。
愛衣「ど、ど、ど、どうもあ、あ、ありがとう!」
音無「どうしたの?」
顔を覗き込んでクスっと笑う余裕の音無。
純情な愛衣は音無の振る舞いに終始ドキドキする。
クレープを食べ終わりベンチで雑談。
愛衣「自分で聞くのもなんかあれだけど、音無くんはあたしのどこを好きになってくれたの?」
愛衣(二人きりだし聞いてもいいよね?)
音無「好きなところ?全部だけど」
愛衣「もう~そんな冗談言って~!」
恥ずかしくて音無の背中をバシバシ叩く愛衣。
音無「ホントだよ。一宮さんって、見た目は派手だけど、誰に対しても親切で優しいでしょ。そういうところいいなって」
音無「だから、どこをって聞かれても言えない」
愛衣「えー、嬉しい!いやいや、でも褒めすぎだよ~!」
照れ隠しの笑顔を浮かべる愛衣。
音無「その笑顔も可愛い」
愛衣「も、もう!音無くんってばお世辞ばっか言って~!」
音無「照れてる顔も、一宮さんは全部可愛いよ」
照れくさくて明るく振る舞う愛衣を熱っぽく見つめる音無。
音無「愛衣」
愛衣は息が止まりそうなほどドキドキ。
真剣な顔の音無。
音無「今は彼氏彼女だから、こういうことしてもいいんだよね?」
愛衣の手をギュッと握る音無。絡み合う二人の指。
いつも気だるげな音無が見せる雄の顔。
愛衣「お、音無くん!?」
思いがけない音無の猛烈なアプローチに顔を真っ赤にする愛衣。