「あんた、何してるの!? 私の碧央が死んだらどうしてくれるの! 碧央じゃなくて、あんたが死ねばよかったのよ。碧央、目を覚まして、今救急車呼ぶから」
名前の知らない彼女のスマホの持つ手が震えていた。
碧央に近づいて、ワンピースの服が血だらけだ。
結愛は、彼女の代わりに救急車を呼んで立ち去った。
(私は彼女じゃない。そんなのわかってる)
結愛はそわそわとした。
助けてもらったのにお礼一つも言えてない。安否も分からない。自分が碧央の命を奪ったようなものだ。
買い物に行く途中だったがそれどころでは無く、家に帰り、シャワーを頭から被って心を落ち着かせた。
結愛は自責の念に駆られ続ける。
碧央が交通事故に遭ってから1ヶ月は経っていた。
彼が生きているか分からない。
会うことすらできなかった。
結愛は、自分が悪いんだと攻め続けて、
家の外に一歩も出ることができなくなった。
結愛は、これでもかと言うほどの涙も流した。
話を聞いてくれる人も友達もいない。
碧央の彼女には死を望まれた。
廃人のような体を鞭打って、母親に卒業だけはしてくれと懇願された。
汗水垂らして貯めたお金で大学行かせたんだと泣き疲れて、ようやく我に返り、引きこもり生活から脱却した。
結愛は細々となった体で3ヶ月ぶりの大学の講義室に入ると、後ろから声をかけられた。
聞き覚えのある声だった。
「結愛、大丈夫か?」
呼び捨てするほどそこまで深い仲じゃなかった。
心配するのはこちらの方。死んでいたかと思った。
大した怪我をしていなかったようで元気そうな碧央がいた。
結愛はぺたんと腰が抜けて立てなくなる。
碧央を幽霊のように驚いていた。
同じ目線でしゃがみ、碧央は結愛の頬の涙を指で拭った。
初めて碧央と会った時は今まで感じたことのない感覚になり、初対面でもすぐに意気投合した。
お互いに偽名を使っていたのに、自然に打ち解けていた。
好きな色が同じ青色で、好きなカップ麺の味がシーフード味。共通点が一緒で元の陰の性格が陽になってしまうくらいだ。
隣にいるだけで心から落ち着いていた。
朝焼けの空をいつものようにホテルの窓から覗いていた。
碧央の隣で見るこの空はもう2度と見ることが出来ないと思うと悲しくなった結愛は、すやすやと眠る碧央の横で静かに泣いた。
ワンナイトと分かっていても、受け止められない想いがあった。
後ろ髪を引かれるように結愛はホテルの部屋を出て行った。
指先が震えた。覚えていない。
何で今隣にべったりと碧央がいるのか。
1番後ろの座席で聞こえもしない経済学を学んでいる。
授業なんて考えず、ただただ静かに机の下で
指を絡めて手を繋ぐ。
本当はお互いにずっとこうしたかったんだ。
教授が板書してる間に
ノートでお互いの顔を、隠して熱いキスを交わした。
会えなかった時間を埋めるため、
前よりも増して近い距離。
拒絶反応は無かった。
碧央の真実が見えて安堵した。
「俺、結愛が1番良いって会った時から思ってた。
顔も全部。体の相性も」
「一言、余計!」
結愛は碧央の頬をパチンと軽く叩く。
愛のむちが嬉しかったりする。
校門前、碧央は結愛を熱く抱擁した。