「ねぇ、お願い。璃子〜」


パチンと手を合わせた愛花に懇願され、不覚にも心が揺れた。


……はぁ。

今日拒否したって、また明日も追及されるのが目に見えてる。

あまり言いたくはないけど、ここまで何度も訊かれたらしょうがないか。


「……絶対笑わないでね」


あたしはふぅ、と息をついてから渋々重たい口を開くことにした。


そう──あたしが雪平くんと出会ったのは……。


「たしか、3月の半ばくらいだったんだけど──」






『う〜っ、さっむ』


それは、美容院に行った帰り道のことだった。


──ビュゥッ。


『うわっ!』


突然吹いた風によってボサボサになった横髪に、どこかへ行ってしまった前髪。


もーやだ、最悪。

折角早起きしてかわいくしてもらったのにぃ!


『んもぅ、風のバカー!』


声を荒らげながら顔面にへばりついた髪を直していると──。