「……見なくてもいいの?」
真夏くんが心配そうに尋ねてくれる。
「うん。今、福田さんに見つかったら、連れ戻されちゃう」
そんなことになったら。
好きでもない人との初キスが確定してしまう。
(まぁ、このままだと映画の出演も取り消されちゃうかもだけど)
……真夏くん。
私、わがままかな?
どうしても初めてのキスは真夏くんがいい。
だけど。
お仕事だって大事。
絶対に映画には出たいんだ。
(よく言うよね? 二兎追うものは……って)
それでも。
叶えるんだ。
それから。
夕方に近づいた頃。
スマートフォンに、福田さんからの着信があった。
私は無視を決めていたけれど、
「出たほうがいいよ」
と、真夏くんが言った。
「このままじゃダメって、すみれちゃんが一番よくわかっているよね?」
うん。
うん、わかってる。
私は返事の代わりに真夏くんを見つめて、スマートフォンの応答ボタンをタップした。