「久しぶり、真夏くん」



都内のとあるアパートの二階。

犬飼(いぬかい)』と書かれた表札が、部屋番号の『203号室』とインターホンのチャイムの間に、お行儀良く鎮座している。



「えっ?」
と、私より三歳年上の犬飼 真夏くんはメガネの奥の目を大きく見開いた。



セミがミンミン鳴いている。

夏空に浮かぶ太陽は眩しくて、容赦ない日照りを私達に浴びせる。



「今日、最高気温やばくない? 真夏くんにアイス買って来たんだけど、溶けてないかしんぱーい」

「……え、あ、ありがとう。いや、そうじゃなくて……」



真夏くんは戸惑った様子を見せて、でも、意を決した様子で私にこう聞いた。



「……あの、すみれちゃんだよね?」



私はニッコリ笑って頷く。



「そうだよ、高野(たかの) すみれ! 真夏くんの幼馴染みのすみれだよ! 2年ぶりの再会だよね」

「いや、……そうだけど、でもなんでここに?」



私は真夏くんの言いたいことはわかっていたけれど、わざと小首を傾げて、
「ん?」
と、聞き返した。