「危ない! すみれちゃん!!」



どうしてなんだろう?

転ぶ時って、目の前の世界がスローモーションになる。



私の体を庇うようにして。

幼馴染みの真夏(まなつ)くんが、私に手を伸ばす。

頭に手を添えて守ってくれた。



一瞬の出来事だけど、胸の奥がキュンって鳴ったみたいな感覚。



手に持っていたアイスが少し溶けていたのか、その水滴が部屋にキラキラ輝きながら散らばる。

床に置いていたショッキングピンク色のエコバッグが、私の足元で空中を舞っていた。

私のオレンジ色のネイルが。

ハレーションを起こしたみたいに何重にも重なって見えた気がする。



世界がスローモーションの時間は終わり、代わりにドンッと床に倒れた。

音の割りに衝撃が少ない。

真夏くんに守られたからだと思うと、申し訳なさが二割、ときめきが八割くらい。



「大丈夫!? どっか痛い!?」
と、真夏くんが私の顔を見る。



「大丈夫」



答えつつ、真夏くんに抱きしめられているみたいな、この状況に鼓動が速くなる。