夕方から始まったレコーディングは深夜になっても終わらなかった。
 4人で演奏をするのが久しぶりだったこともあったが、それ以上に実力差が大きかった。
 1年間のツアーで3人の腕は格段に上がっていたが、自分のギターテクニックは学生時代と変わらなかった。
 レコーディングの連絡を受けてから必死になって毎日練習したが、それくらいで急にうまくなることはなかった。
 アマチュアとプロの差を痛感した。

 すると気分がどんどん落ち込んでいった。
 指がスムーズに動かなくなり、得意の速弾きが決まらなくなった。
 休憩を取って、温かいタオルを指に当てたりしたが、そんなことで改善することはなかった。
 技術の問題ではなく気持ちの問題だと思って、自分はできる、自分はできる、と何度も暗示をかけたが、これも効果はなかった。
 それでもメンバーは励まし続けてくれた。

「無理に背伸びしなくていい。スナッチらしく弾けばいいんだ」

 ベスが平常心での演奏を促した。

「ドンマイ、ドンマイ。肩の力を抜いていこうぜ」

 タッキーがスティックをくるりんと回して笑った。

「さあ、もう一度やろう」

 キーボーが肩に手を置いて頷いた。

 しかし何度やり直してもOKは出ず、ガラスの向こう側のコントロールルームで轟が心配そうに見つめていた。
 時刻は午前3時。
 録音スタッフの顔に疲れの色が見えていた。

「次で最後よ」

 轟が抑揚のない声で告げた。
 それは、次でダメならギタリストを替えるというシグナルに違いなかった。

「ちょっと休憩させて下さい」

 ベスの声だった。

「外へ行こう」

 腕を取られた。