須尚正 

 スナッチフォンのベルがけたたましく鳴った。
 受話器を取ると、キーボーの興奮した声が聞こえてきた。
 レコーディングの連絡だった。
 突然の依頼に驚いた。
 何か言おうとしたが言葉が出ていかなかった。
 気がつくと、受話器を握ったまま口が開きっぱなしになっていた。
 キーボーのあとにタッキーが、そのあとにベスが何か言っていたが、何も耳に入ってこなかった。
 なんとかレコーディングの予定日と場所をメモして受話器を置いたが、フワフワして体が浮いているような感じがいつまでも続いていた。