「一つお願いがあります」

 瞬きもせずに言葉を継いだ。

「レコーディングにスナッチを参加させたいのですが」

「スナッチ?」

 轟は首を傾げたが、すぐに、「あ~、作詞作曲をした人ね」と思い出したようだった。

「彼にギターで参加してもらいたいのです」

「でも、ギターは……」

「はい。ご紹介いただいたギタリストと1年間ツアーをしてきました。彼は凄いテクニックを持ったギタリストです。スナッチよりはるかにうまいギタリストです。しかし、スナッチの哀愁のあるギターの速弾きは、誰にも真似のできない、なんというか、本当にオリジナリティー溢れる演奏なのです。デビュー曲のギターは彼に弾いてもらいたいのです。なんとか、よろしくお願いします」

「お願いします」

 タッキーとベスも続いて頭を下げた。

「でも、そう言われても……」

 轟は目尻が下がって困っているような表情になったが、すぐに戻して、「彼は何をしている人なの? 何処にいるの?」と謎めいた人物の正体を探ろうとした。
 もちろん3人はスナッチがエレガントミュージック社の社員であることを知っていたが、それを明かそうとはしなかった。
 プロになる気がまったくない彼の人生に大きな影響を及ぼしたくなかったからだ。

「ミステリアス・ギタリスト、とお考え下さい」

「と言われても……」

 轟は納得しなかったが、ロンリー・ローラが作られた背景とそれに込められたスナッチの想いを力説すると、「う~ん、そうね~」と腕を組んで視線を遠くに投げた。

「もしダメだったらすぐに替えてもらっていいですから」

 するとキーボーに視線を戻した轟が念押しするように低い声を出した。

「本当に替えるからね」