「須尚正と言います」

 彼女の女友達がトイレに行った時、自己紹介をした。
 すると可愛い声で、彼女も名を告げた。

「河合美麗です」

 かわい……、みれい……、

 こんなに可愛い女性の名字が、かわい、そして、名前が、美しく麗しい、なんという……。

 彼女は大学に通いながら主に土日祝日にあの店でアルバイトをしているのだという。
 そのため長崎くんちの3日間も出勤を要請されたが、県外から遊びに来た友達のために今日と明日は休みを取ったということだった。

 大学は長崎外語大学で、2年生だという。
 英語の他にフランス語とスペイン語とポルトガル語を勉強していると言うのでそれについて詳しく訊こうとしたが、残念ながら友達がトイレから帰ってきたので会話はそこで終わった。
 それだけでなく、彼女は立ち上がって、次の予定地に移動するためにそろそろ行かなければならないと申し訳なさそうに少し顎を引いた。
 もっと一緒にいたかったが、今から港を挟んで反対側の稲佐山(いなさやま)へ行くという彼女たちをこれ以上引き留める理由がなかった。
 仕方なく2人を見送った。

「来週の土曜日、トルコライス食べに行きます」

 後姿に声をかけると、彼女は振り向いてとびっきりの笑顔を返してくれた。
 それが余りにも可愛かったのでじっとしてはいられず、菓子折りの包装紙をぐしゃぐしゃにして抱きしめてしまった。

 福砂屋さん、ありがとう。
 グラバーさん、ありがとう。

 また、感謝の塊になった。