そんな中、籠町(かごまち)の『龍踊(じゃおどり)』が始まった。
 格子柄(こうしがら)のグレーのベストを着た踊り手たちが黒い棒の先に取り付けた龍を自由自在に操っている。
 それはまるで生きているとしか思えないような見事な舞だ。
 それに、子供たちが奏でるシンバルの音色が(いにしえ)の唐の雰囲気を醸し出して一気に異国情緒に包まれ、心を鷲掴みにされた観客が立ち上がって手を叩き始めた。
 そのせいで最後列の自分の視界が閉ざされてきたので思い切り背伸びをしてつま先立ちになったが、そこまでしても見たくなるほどの素晴らしい舞だった。

 最後は東濱町(ひがしはまのまち)の『竜宮船』が特別参加で登場した。
 金色の眩い三層楼閣(ろうかく)(かたど)った傘鉾の先頭には真っ赤な毛をたなびかせた竜が大きく口を開け、鋭い牙を露わにしていた。
 その前で踊る艶やかな着物女性との対比が見事なので見惚れていると、突然男衆が竜宮船を豪快に回し始めた。
 すると会場は一気にヒートアップして、竜の頭がグルグル回る迫力の舞に大きな拍手と歓声が送られた。

 その余韻が残る中、籠町の『龍踊』と東濱町の『竜宮船』を一緒に見ることができたのは今年が初めてだとアナウンスがあった。

 なんてラッキーなんだろう。

 余りの幸運に思わずガッツポーズを作ってしまったが、それに促されたのか、お腹が鳴った。
 思い切り鳴った。
 そうだった。
 朝起きてから何も食べていなかった。
 すぐにご飯を食べられるところを探したが、どの店も長蛇の列で、かなり待たなければ入れないようだった。
 この辺りで食べるのは諦めた。