えっ? なんで? 

 何回も目を擦った。

 本当? それとも、まだ夢? 

 笑美だった。

 警備員に断りを入れて、彼女を研究室に連れて行った。
 今まで寝ていたソファの毛布を片づけ、2人が座れるスペースを作った。
 すると、彼女が紙袋から何かを取り出した。

「差し入れよ」

 夜食を作ったのだという。

「一緒に食べようと思って」

 風呂敷を解くと、2段式の大きな弁当箱が姿を現した。
 1段目には、だし巻き卵と鶏の唐揚げとタコの形をしたウインナーと焼き鮭、そして、プチトマトとホウレン草のおひたし、それに、ポテトサラダが色鮮やかに詰められていた。
 2段目には、一口サイズのオニギリが並んでいた。
 海苔、シソ、梅干、コンブだという。どれも好きなものばかりだった。

「召し上がれ」

 彼女は割り箸を包み紙から出してパチンと割った。
 しかし上手に割れなかったので舌をペロッと出した。
 その可愛さに思わず見惚れてしまった。

「どうぞ」

 声にハッとして割り箸を受け取ってだし巻き卵を口に入れると、ほんのりとした甘さが口の中に広がった。
 これだよ、これ。
 思わず頬が緩んで、ガツガツと一気に平らげた。

 でも、ごちそうさまと言おうとして大変なことに気がついた。
 笑美の分まで食べてしまっていた。
 上目づかいで顔を見ると、
 大丈夫よ、というふうに笑ったあと、
「どうせ即席麺しか食べていないんでしょう」
 と研究室のカセットコンロと小さな鍋、そして中身を出してくしゃくしゃになった袋を指差した。
 図星だった。
 頭を掻いたら、「また作ってくるわね」と微笑んだ。

 実験が一段落していたので、研究室の灯りを落とし、鍵をかけた。
 そして、当直の警備員に挨拶をして、笑美の自宅に向かった。