浜町アーケードから思案橋へ向かい、老舗っぽい中華料理店に入った。
『長崎ちゃんぽん』を頼んで水を飲んでいると、ふと違和感の正体がわかったような気がした。
 自社品の売上分析だけでは不十分だと気がついたのだ。
 それは間違いないと思った。
 しかし他にどんな分析をすればいいのかわからなかったので、長崎ちゃんぽんを食べながら澤ノ上教授の講義を思い浮かべた。
 何かヒントになることを教えてくれたはずなのだ。

 思い出せ! 
 思い出すんだ! 
 脳の海馬から記憶を引っ張り出すんだ! 

 長崎ちゃんぽんをガツガツ食べながら海馬に気合を入れた。
 するとそれが功を奏したのか、おぼろげに教授の言葉が蘇ってきた。

「偏った分析はミスリードに……」

「多面的な分析が……」

「違った方向から物事を見る……」

 途切れ途切れに教授の言葉が蘇ってきた。
 その言葉の断片をつなぎ合わせると、
「一つの見方だけでなく、違った方向から多面的に分析したものを俯瞰(ふかん)して見なければならない」となった。

 そうだ! 分析を一つしただけで、それがすべてだと思ってはいけない。
 違った角度から分析をして、それを総合的に見なければいけないのだ。

 よし、視界が開けてきた。

 胸の奥のつかえを押し流すようにスープを一気に飲み干した。
 そして、急いで自宅兼事務所へ戻って、本社に電話を入れた。

「前回、自社品の売上上位リストを送ってもらいましたが、今回は他社品も含めた店舗全体の売上分析をお願いします。……。そうです、規模の大きなレコード店が知りたいのです。……。はい、それと、できればその表に自社品の売上も記載して欲しいのですが。……。そうです。それで結構です。……。はい、よろしくお願いします」