指定された日時にピアニストの自宅を訪問した。
 可愛い花束を手土産に持っていった。
 その名は『ペンタス』で、ピンクの小さな花が密集して可愛く咲いていた。
 これを買ったのには理由があった。
 店の人が教えてくれた花言葉が気に入ったのだ。
 それは、『希望が叶う』というものだった。
 
 応接室に通されて自己紹介をしたあと、すぐに想いをぶつけた。
 なんとしてでも合格したいと身を乗り出して訴えた。
 ピアニストは頷きながら聞いてくれたが、
 話し終わると、厳しい表情になり、ジュリアードのレベルの高さを具体的に話し始めた。
 入学するのは簡単ではないこと、実技試験が難しいこと、超一流のプロと比肩する実力を持つ教授たちの耳を満足させるのは容易ではないこと、合格率は5パーセント前後であること、しかも、アジア出身者の門戸は更に狭いこと、などを言い聞かせるように告げられた。
 そして、「あなたの演奏を聞かせて」と言って立ち上がった。