昨日で薬学部3年生の後期試験が終わったが、気を抜くことはできなかった。
 卒業時の薬剤師国家資格取得を目指して勉強に励まなければならないからだ。
 それは製薬会社の社長となる彼のパートナーとして最低限の条件だと思っていた。

 しかしその一方でもう一つの夢が膨らんでいた。
 ジャズピアニストになる夢だった。
 幼い頃からピアノを習い、高校に入ってからはジャズに魅了され、大学に入ってからは一層腕を磨いてきた。
 MOGAMIZとして、またソロとして、各大学で演奏する度に盛大な拍手を貰えるようになった。
 常にアンコールを求められるようになった。
 プロにならないかという誘いも受けるようになった。
『美人薬剤師ピアニスト』というキャッチコピーで売り出したいという芸能プロダクションまで現れた。
 もちろん芸能界に入るつもりはまったくなかったが、プロのジャズピアニストとして活動をしたいという願望は日に日に強くなっていた。