(とどろき)響子(きょうこ)

 新人発掘能力が低すぎる……、

 今日も絶望的な気持ちでラジオ局をあとにした。
 会社が推す新人バンドをディレクターに紹介したのだが、首を横に振って大げさに肩をすくめて手を広げられたのだ。
「もうちょっとましなバンドを紹介してよ」と。

 エレガントミュージック社に入社以来5年間販促部の邦楽セクションに所属しているが、ヒットを飛ばし続けている洋楽部門と違って苦戦が続いている。
 そのため会社から常にプレッシャーをかけられているのだが、企画部がデビューさせる新人バンドは箸にも棒にも引っかからないものばかりで、どうしようもなかった。
 だから、ディレクターに拒絶されるたびにいつも暗澹(あんたん)とした気分になった。
 このままでは邦楽部門は消滅してしまうかもしれないという危機感が募っていった。
 それに、もう限界だった。
 手応えのないスカスカの毎日を続けるのは無理だった。
 勝負に出るか、それとも会社を辞めるか、そのどちらかだという思いが日毎に強くなっていた。
 それが今日のディレクターの一言ではっきりと固まった。
 考えていたことを実行することにしたのだ。
 それは、新人発掘業務を手掛けるために自己申告制度を利用して企画部邦楽セクションへの異動を申告することだった。

 勝負をしてダメだったら会社を辞めよう。

 自らに言いきかすように敢えて口に出した。
 そして、人事部へ書類を取りに行った。