翌日部室に行くと、何事もなかったように3人が迎えてくれた。
 あの日の陰険なムードは完全に消えていた。
「どうも」と言って自分の定位置に座った。

 4人でカセットテープを聴いたあと、コード進行を説明した。
「Cm→A♭→B♭→Cmの循環で始めて、サビは、E♭→F→G7→E♭→F、そして……」
 それ以外にも何か所か確認したあと、ギターでイントロのリフを弾いて、ベースラインを、次に、ドラムを、そしてキーボードをと順に音を合わせていった。

 それが終わると、ヴォーカルパートについて説明をした。 
「キーボーがリードヴォーカルを、ベスがハーモニーをつけてください」
 2人は、わかったというふうに頷いた。

 これ以上確認することはなかった。
 タッキーに視線を送ると、「ワン、トゥー、スリー、フォー」とスティックを叩きながらカウントを始めた。
 それを合図に演奏が始まった。
 イントロを弾き終わると、歌が始まった。
 サビの部分でキーボーの高音が伸び、掛け合いのようにベスのハスキーヴォイスが絡んできた。
 ドキッとするくらいスリリングな絡みに気持ちが乗ってきた。
 間奏のギターを弾き始めると連符の速弾きが決まった。

 練習を繰り返して完成の域に達したところでスタジオを借りた。
 デモテープを作るためのレコーディングをするためだ。
 8トラックのプロ仕様オープンリールに幾つもの音を重ね、ハーモニーは念入りに吹き込んだ。
 そして、イントロとエンディングのギターはツイン・リードで決めた。